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要塞攻め

 飲みかけていた麦酒ビールのジョッキを再び傾け、一滴残らず流し込むエステル。彼女の胃袋は底無しらしい。


「ヒーマン司令官のやってた事は、聖王国に対する背信行為に他ならないわ。でも、今までは問題なかった…ひとまず表面上はね。けど、七大国間の戦争…いわゆる七国大戦が始まってからは、聖王国にとって明らかな足枷になっているわね。なにしろ、叩かなきゃいけない時に敵を叩けないんだから」


「もし、このまま巨大要塞フルングニルに攻める事ができない状況が続くと…どうなると思いますか?」


 今までの話を整理すると、今のうちに北統王国を叩いておかなければいずれ帝国・北統王国同盟軍により聖王国は攻め立てられる事になるらしい…そこまでは椿も理解している。しかし、万が一そうなったとして聖王国に待っているのは絶望なのか。聖王国には聖騎士パラディンもいる…すぐに滅亡する、という訳ではないようにも思えた。その辺りの事を聞いておきたかったのだ。


「んー…正直、聖王国は滅びるしかないんじゃない?」


 エステルは迷いなく言い切った。


「…確実に、ですか?」


「ほぼ確実に…ね。聖王国には聖騎士パラディンがいる…けど、帝国の大将軍フィシュタル・ジェネラルが二人揃って攻めてくるような事になれば、対抗するのは難しいわね。聖騎士パラディンのトップ、正義の聖騎士パラディン・オブ・ジャスティス大将軍フィシュタル・ジェネラルとほぼ同等の実力を持っていると言われてるんだけど…もし片方の大将軍フィシュタル・ジェネラル正義の聖騎士パラディン・オブ・ジャスティスが抑える事ができたとして、もう片方の大将軍フィシュタル・ジェネラルに対抗できる人間はいないわ」


「…」


大将軍フィシュタル・ジェネラル配下には優秀な将軍も揃ってるしねー。七騎しかいない聖騎士パラディンで全部の相手をするのは難しい…要はコマが足りないのよ」


 確かに…と椿は思う。ヒューゴ配下のシャルンホストやフィレルは聖騎士パラディンと比べても遜色のない能力ステータスを持っていた。あんな人物が他にもいるとすれば…人材に乏しい聖王国軍が対抗するのは厳しいだろう。


「だから、結局そこに話が戻るけど…大将軍フィシュタル・ジェネラルの動けない今のうちに北統王国を叩いておく必要があるの。北統王国を叩いてティグラム山脈の出口を固めておけば…ひとまず大軍を送り込むのは困難になる。少なくとも数年は耐える事ができるわ」


「じゃあ、やっぱり巨大要塞フルングニル攻めは絶対に必要って事ですね。ヒーマン司令官は、その事を分かっていないんですか?そのう…いくら密貿易で儲ける事ができるとしても、聖王国が滅びてしまったら意味がないと思うんですけど…」


 いくら金を蓄えた所で、聖王国が帝国軍に占領されてしまえばヒーマン司令官は財産没収か…場合によっては処刑もあり得るだろう。財産を蓄えるために巨大要塞フルングニル攻めを渋っている場合ではないのでは?椿にはそう思えた。


「多分、理屈では分かってても感情の上で『何とかなる』と思ってるんじゃないかしら。なにしろ、北部要塞ノルドでは何百年も争いらしい争いなんて起こってないんだもの。この平穏がずっと続くだろう――心の中で、そんな風に思い込んじゃってるのよ。あと、万が一帝国に占領されても賄賂を渡せば何とか今の地位を保てるんじゃないか、とかそんな事考えてるんじゃない?…そんな甘い考えが通じるような相手じゃないと思うけど」


「…エステルさんの見立てでは、巨大要塞フルングニルをいつまでに攻め落とさなければ聖王国は滅亡すると考えていますか?」


「そうねえ――あと、三ヶ月かしら」

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