急転8
「はぁ…はぁ…!」
「だ、大丈夫?」
領域解析を解除した椿の表情は、驚愕のあまり真っ青になっていた。ハティはそんな彼を支えつつ、心配そうに顔を覗き込む。
「ごめん…大丈夫だよ」
そう答えながらも、椿の心臓は早鐘を打っている。彼が領域解析を使用した時点で、ヒューゴはすでにオスカーの所へ向かっていた。間もなく両者は激突するだろう。
(オスカーさんでも…勝てるか分からない…)
椿の解析によると、ヒューゴの武力は100。その能力値はカムランやヴォルフラムすら凌いでいる。もっとも、戦いには様々な要因が絡むため、能力値が高い方が必ず勝てるとは限らない。だが…オスカー側の分が悪いのは間違いない。
(どうする…どうすれば…)
今から駆け付けた所で、ヒューゴとオスカーの戦いの決着には間に合わないだろう。だからと言って、ヒューゴを放っておけば彼に指揮された軍団によってエレオノール軍左翼軍団は壊滅する可能性が高い。ならば、左翼の救援に向かうべきか。しかし左翼軍団を立て直すとなれば、オスカーレベルの指揮官が必要であり兵の増援も必須。もし中央第一軍からその援軍を派遣するとなれば、今度は中央が手薄になってしまう。
「どうしたんだい、ツバキ。…大丈夫かい?」
青ざめながら思考を巡らせる椿。そんな彼の耳に、エレオノールの声が届いた。




