急転6
自身に向かって凄まじい勢いで大剣が振り下ろされる。目の前に迫る死。だが、その瞬間においてもヒューゴ・トラケウはあくまで冷静だった。左手を伸ばし、そこに触れたものを引き寄せる。
「え…?」
クロエ・フィレルは驚きの声を上げた。突如ヒューゴに腕を掴まれ引き寄せられたからだ。そして、引き寄せられた彼女はヒューゴとオスカーの間に割り込む事となる。
「…!」
オスカーの剣が僅かに…ほんの僅かに速度を落とす。今剣を振り下ろせば、ヒューゴが盾としたクロエ・フィレルもろとも切り伏せる事となる。言うまでもなく、フィレル上将軍は敵だ。しかし、ヒューゴによって無理矢理盾とされたのは明白。そんな相手を斬るべきか、否か。
結果として、オスカーは剣の軌道を変え斜めに振り下ろす事によって、フィレル上将軍を避けつつヒューゴのみを切り伏せようとした。だが…、そこで生じた僅かな。ほんの僅かな隙が明暗を別けた。
ヒューゴは、荒れ狂う暴風の如きオスカーの剣が体に触れる直前に避けた。あと瞬きひとつ分も行動が遅ければ、ヒューゴの首はオスカーの剣によって断ち切られていただろう。だが、結果としてヒューゴはオスカーの剣を避けきった。そして、剣を持った自らの手をつき出す。
ヒューゴ・トラケウの剣がオスカーの胸に深々と突き刺さった。




