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急転
伝令兵が顔を上げた。その瞬間、ブルーノの肌がぞくり、と泡立つ。いや、ブルーノのみならず、この場にいた全員がそうだっただろう。唯一の例外は――オスカー・グロスモント。
彼は大剣を掲げ、伝令兵に向かって猛然と駆けていく。伝令兵の方も同様に、オスカーに狙いを定め剣を抜く。伝令兵が持つには相応しくない…長大な剣。そして、両者の剣と剣がぶつかった。その音は大気を震わせ、周囲の者達は例外なく息を飲む。
「出来れば…不意打ちで仕留めたかったが。私の存在に気がつくとは、さすがは勇壮の聖騎士。その直感…驚嘆に値する」
伝令兵は低く囁いた。オスカーは声の主を睨み返す。
「ヒューゴ・トラケウだな」
伝令兵は答えない。だが、オスカーの直感が伝えていた。今眼前にいる男は、間違いなくヒューゴ・トラケウその人であると。本来ならば中央第一軍にいるはずのヒューゴが、どうしてここにいるのか?その理由は明白だ。
「俺を…討ちに来たか」
「その通り。君の命を…もらおう、オスカー・グロスモント」




