最終戦開始37
「ブルーノ!」
オスカーは対峙していたマルセル、ルボルと距離を取りつつ配下の部隊長の名を呼んだ。
「グロスモント卿、何事でしょう!」
オスカーの背後にいた部隊の中から、筋骨隆々とした男が進み出る。
「ガレスに伝えてくれ」
前方のマルセルとルボルを警戒しつつ発せられたオスカーのその言葉に、ブルーノは頷く。現在、副軍団長であるガレスはオスカーの代わりに軍を率い敵軍を攻め立てている。それに伝令を、という事は何か状況が動くとオスカーは読んだのだろう。
「俺が負けた場合、進撃を中止。防御に徹するように伝えてくれ」
「なっ…負け…?」
ブルーノは我が耳を疑った。彼はオスカー配下でもガレスと並ぶ最古参。オスカーがまだ少年だった頃から側にいる。そんなブルーノは、オスカーが『自分が負けたら』などと易々と口にするような人間ではない事を知っていた。そもそも、今オスカーはマルセル、ルボル、フィレル上将軍を相手にして完全に優位に立っている。『負ける』などと考える必要はこれっぽちもないはず――。
そんな懸念を抱いたその時、どこからともなく一騎の騎馬がオスカーとフィレル上将軍達の間に割って入った。その騎馬に乗る人物は、伝令兵の装いに身を包み顔を隠すかのように俯いていた――。




