最終戦開始34
「ミュルグレス率いるヒューゴ軍別働隊は、ヨハンネス軍の本営にまで迫っているようです!」
「ありがとう」
伝令兵に頷くエレオノール。彼女から少し離れた場所にいた椿は、エレオノールに近寄り声をかける。
「今この伝令が届いたって事は、ひょっとしたら今頃は…」
「うん。もうすでにミュルグレス・レイはヨハンネス王太子の本営に到着しているだろうね」
伝令によって届けられる情報には、当然時間差がある。それを考慮すれば、ミュルグレスはもうヨハンネス軍の本営に到着していると見て間違いないだろう。
「ミュルグレス別働隊が引き返してこちらの戦線に戻ってくるまで、早くて2時間、遅くとも3時間といった所か…」
そうなれば、戦況はヒューゴ軍に傾く可能性が高い。エレオノール軍としては、それまでにこちらの優位を決定的なものにしておきたい所だった。具体的には、左翼のオスカーがフィレル上将軍を撃破するか、それともカイ率いる中央第二軍がグナイゼウ率いるヒューゴ軍中央第二軍団を完全に敗走に追い込むか。もしくは、エレオノール自ら中央第一軍を率い出陣して一気に勝負を決めるか。
いずれにしても、勝敗の鍵はエレオノール軍がいずれかの戦場で決定的な勝利を上げる事が出来るか…ヒューゴ軍がそれに耐え、ミュルグレスの到着を待つ事が出来るかどうかにある。
それはこの戦場にいるほぼ全ての者の共通認識。この戦いにおける常識。だが、
(本当に…それで…正しいんだろうか…?)
不意に、椿の脳裏に一抹の不安が芽生えた。




