最終戦開始32
「な、なぜ…ヨハンネス殿下が逃げ出した時間と方角が分かるのですか…?」
部隊長がミュルグレスに問いかける。
「この本営の状況を見て、そう判断しました」
ミュルグレスは簡潔にそう説明した。彼の言葉にもし補足を加えるとすれば、以下のようになる。
卓上に置かれている地図、そこに書き込まれている兵の配置は約40〜50分前のものを現している。前線から伝令が届くまでの時間を10分から20分程度と見て、30分前まではこの本営に人がいた証拠となる。また、飲みかけの茶の冷め具合から見てもおそらくそのくらいと想像できた。
ヨハンネスが逃げた方角については、ミュルグレス別働隊が進行してきた西方向に逃げたというのはありえない。ミュルグレス軍から距離を取るだけならば、東へ逃げるのが最も効率がいいだろう。しかし、東には荒野が広がっている。ミュルグレス隊から見つかりやすい上に、食料の確保なども難しい。
だが、北東に逃げれば森がある。ここならば姿を隠しやすい上に、獣を狩ったり木の実を採取する事で最低限の上は凌げるだろう。それらの事情からミュルグレスはヨハンネスの動向を予想した訳だが、それを要約したのが「この本営の状況を見て、そう判断しました」という表現だったという訳だ。
ミュルグレスは状況を判断すると、すぐに行動を開始した。再び馬に跨り、兵を引き連れ北東へと駆け出していく。




