最終戦開始26
「現状は…いいみたいっすね、エレオノール隊長」
「ああ。指揮官も兵も、みんな全力で頑張ってくれている…」
エレオノール軍中央第一軍団本営。エマの言葉にエレオノールは緊張した面持ちで頷く。
現在、右翼のエステルはシャルンホストと奇策の応酬を繰り広げつつも両陣営ともに被害はゼロ。
左翼のオスカーはフィレル上将軍、マルセル、ルボルという強敵を一度に相手しつつ、その隙にガレスが敵軍を押し込んでいる。
そして、カイ率いる中央第二軍団。当初はじりじりと敵を押し返したいたこの軍団だが、現状は大きく違う。カイが敵の将軍を討ち取り、ユーウェインとサグラモールが上級指揮官を返り討ちにした事によりエルンスト率いるヒューゴ軍中央第二軍の戦力は士気を大きく低下した。
さすがはヒューゴが中央第二軍の軍団長に任命しただけあって、エルンストもよく持ちこたえている…が、カイ達が圧倒的優勢に立ったのは誰の眼にも明らかである。聖王国残党軍と戦っているミュルグレスの存在など、未だ不安材料はいくつかある…が、戦場全体を総合的に見てエレオノール軍が優位である事はまず間違いないと言って良いだろう。そして、それを裏付けるかのような伝令がエレオノールのもとに届く。
「伝令です!その、不確かな情報なのですが…」
「構わないよ。手に入れた情報をそのままの形で伝えて欲しい」
エレオノールは伝令兵に対し穏やかな声音で返す。
戦場では情報が錯綜し、味方の伝令であろうと必ずしも正しいとは限らない。だが、何が正しいかを判断するのは指揮官の努め。例え情報が間違っていたとしても伝令兵に罪はない。にもかかわらず、「適当な情報は持ってくるな」などと言えば伝令兵は委縮してまともに任務を果たせなくなってしまう。エレオノールはそれをよく知っている。だからこそ、彼女はこういった場合でこそ穏やかに発言を促すのを常としていた。
そんな彼女の様子に安堵したのか、伝令兵は一度大きく息を吸った後伝令を伝える。
「は、はい…。あくまで、噂ですが…敵の総司令官…ヒューゴ・トラケウが大きく取り乱しているらしいのです」




