最終戦開始5
エステル・ラグランジュ率いるエレオノール軍右翼軍団の眼前には、大きな障害物もなく青々とした平原が広がっている――が、それは見た目の上での事。こちら側の平原は一部が湿地帯となっており、一見すると中央の平原と変わらないが所々に草で覆い隠された沼がある。その沼を避けつつ、どう戦うかというのがこの戦場の要となる訳だが…、
「やるわね、フェルマー・シャルンホスト…」
エステルは、眼前に展開するヒューゴ軍左翼軍団を見つつ目を細める。
敵軍は、巧妙に沼地の前に軍団を展開している。つまり、もし攻撃を仕掛けようと思えばこちらは沼地に突っ込んで戦わざるを得ないという訳だ。そうなれば当然、エステル側は不利な地形での戦闘を強いられる事となる。
「曲者って話だったけど…ここまで完璧な布陣で来るとは予想以上ね」
沼の前に軍を展開し、有利な状況で戦う…言うのは簡単だが、それを成し遂げるには事前にどこに沼があるか把握している必要がある。しかし、この広大な平原でそれを完璧に把握するのは容易な事ではない。
(つまり、シャルンホストはここが予定戦場になると予想して…ずっと前、おそらくクーデター直後から下見させていた)
派手な言動にばかり気を取られがちだが、その裏で先の先を見越し着々と準備を進めていたという訳だ。ただの狂人ではない。
「正直、今まで私が戦ってきた相手とは格が違う――って感じかしら。嫌になるわね」
小さくため息を吐くエステル。だが、彼女はこの戦いに負けるつもりなどはさらさらなかった。




