憂慮
(なんだか、思っていたのと違う展開になってきたなあ…)
椿は、要塞内に与えられた自室で天井を見上げながら物思いに耽る。寝起きする程度のスペースしかない部屋だが、椿にとっては十分だった。結局、防衛部隊長が現れないままに解散となり…今日は、行軍の疲れを癒すためそれぞれ与えられた部屋で休息という事になったのだった。エレオノール隊がどのような任務を任されるのかについては、明日以降改めて通達されるとの事だ。
(でも…司令官達の話じゃ、巨大要塞攻めは行わないって事だったなあ…)
事前情報から、てっきり巨大要塞攻めを行うものだと思っていた椿にとっては肩透かしを食らった気分だった。
(エレナは、今巨大要塞を攻めないと後々大変な事になるって言ってたけど…大丈夫なのかな)
帝国領と聖王国領の間には、峻険なティグラム山脈が聳えている。山脈を越える事ができる道筋は限られている…そこに兵力を集中すれば、帝国軍の進行を食い止めるのは可能なはずだった。しかし、帝国軍が北統王国経由で進行して来るとなれば…それを阻むのは容易ではない。それ故に、北からの帝国軍進軍ルートを潰すため北統王国を叩いておかなければならない。
当然、要塞司令官達もその事は理解しているはずなのだが…。
もちろん、巨大要塞攻めが容易でない事は椿にも分かる。丘の上から見ただけでも、あの要塞がどれほど強大なものかは見て取れた。しかし、何かしら攻略する手立てはあるはずだった。例えば要塞の西方にあるラルゼ海を船で渡り後方から攻める。投石器などの攻城兵器を大量に用意し、それによって攻める…などなど。しかし、そういった作戦には船や攻城兵器の作成という周到な準備が必要だ。北部要塞は、そういった準備も行なっていない様子。もし、今から司令官を説き伏せて巨大要塞攻略の準備を行なったとしてもすぐに可能という訳でもない。
さらにもうひとつ、西方戦線から聖騎士を呼び寄せるという手立てもある。いくら巨大要塞が堅牢とはいえ、聖王国最強の聖騎士たちが攻略に加われば落とす事も可能に思われるのだが…要塞司令官は、そのつもりもないようだった。いや、司令官の口ぶりからするとむしろ巨大要塞を攻める事を拒んでいるような…。
もしかしたら、司令官には何か秘められた作戦があるのかもしれない。そう思ってヒーマン司令官を解析してみたところ…、
指揮38 武力29 知謀34 政策51
兵科特性:重装歩兵E 軽装歩兵D 騎馬隊E 弓隊E
特性:権益確保B
という能力値。とても深い考えがある人物には思えなかった。事実、後でエマに聞いた話ではヒーマン司令官は門閥貴族の一員で…家柄のみで今の地位に着いたとの事だ。
続けて、レホトネン副司令に対しても解析を行なってみる。
指揮45 武力21 知謀65 政策59
兵科特性:重装歩兵D 軽装歩兵D 騎馬隊E 弓隊D
特性:保身C
ヒーマン司令官に比べればましな数値だったが、優秀と言える程ではない。ちなみに、他の部隊長達の能力は平均50前後…こちらも、無能ではないが特別有能ではないといった数値だった。
つまり、北部要塞司令部の幹部達の中に切れ者はいない…という事だ。果たして、彼らに従っていていいものなのだろうか。しかしエレオノール隊が単独で動いたとしても強大な巨大要塞は千人程度で落とす事は叶わない。
「どうすればいいんだろう…」
ため息と共に、不安が漏れる。と、その時…コンコン、とドアがノックされた。椿はベッドから起き上がり、
「はい、どうぞ」
と招き入れる。エレオノールか、エマか…それとも他のエレオノール隊の誰かだと思ったのだが…そこにいたのは、見知らぬ顔だった。




