最終決戦8
ヨハンネス軍は現在、エレオノール軍とヒューゴ軍の予定戦場からやや離れた位置で様子を伺っている。戦いが始まれば折を見て介入してくるだろう。だが、ミュルグレスはヨハンネス軍など敵として評価してはいなかった。
「私は早々にヨハンネス軍を潰し、遊軍としてエレオノール軍への攻撃に加わります」
言わば、ヨハンネス軍を叩くのはエレオノール軍との戦いの前哨戦である。まずはヨハンネス軍という邪魔なハエを叩き潰し、その後は自由に動ける別働軍団として、エレオノール軍の左翼、中央、右翼の中で最も効果的な場所に攻撃を仕掛ける…それがミュルグレスの役割だった。もしもその時、エレオノール軍とヒューゴ軍の戦いが拮抗していたとしたら…ミュルグレスの参戦は戦いの趨勢を決定付けるものになるだろう。
ヒューゴはミュルグレスの言葉に頷き、一同に告げる。
「ミュルグレス大将軍がエレオノール軍への攻撃に加わった瞬間、もしくは敵に隙を見つけた瞬間に私の率いる中央第一軍も攻勢に出る。それで一息に勝負を決める」
その作戦方針に異を唱える者はいなかった。敵に倍する大軍とは言え、漫然と戦っていては勝機を逸する可能性がある。勝負所を見極め、一斉攻勢で勝負を決める――基本的だが、それ故に最も効果的な戦術だった。しかし、クロエ・フィレルのみは余計な事と分かっていながら一言ヒューゴに意見を述べる。
「敵はヒューゴ陛下を狙ってくるはずです。攻勢に出る際は、どうかお気をつけを」
「心にとどめておこう」
◇
ヒューゴ軍の最終軍議は終了した。フィレル上将軍を始め、幹部達は天幕を後にする――が、その中で皇帝たるヒューゴと、2人の大将軍であるシャルンホストとミュルグレスのみが未だ天幕内に残っていた。もっとも、それを別段気にする者もいない。シャルンホストとミュルグレスはヒューゴの側近中の側近。ヒューゴが心を許せる数少ない人物だろう、この決戦を前に互いに激励でもしているのかもしれない…多くの者はそんな風に考えた。だが、彼らは激励を送り合うなどという感傷的な事はしない。
ヒューゴは2人の最側近を前に、ただ簡潔に用件だけを述べる。
「それでは、改めて確認しておこう。この決戦で私達が勝つための――真の計画を」




