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厭戦

「質問、ですか…」


 エレオノールはしばし悩む。聞きたい事があるか、と言われれば…それは数多くある。この要塞での生活について、軍事面について…しかしそれは今聞かなくともここで生活していけばいずれは分かる事だろう。だから、もっとも気になっている事…その一点のみを問う事にした。


「どのような質問でも構いませんか?」


「もちろん」


 レホトネン副司令は答えた。


「では――北統王国を…巨大要塞フルングニルを攻める時期はいつになるのか。それをお聞かせくださいますか?」


「なっ…」


 レホトネン副司令、三人の部隊長の顔が強ばった。明らかに動揺している様子だ。司令官のヒーマンはというと…不快そうに唇を歪めている。


「帝国軍の動けない今こそ、巨大要塞フルングニルを攻める好機のはず。要塞攻略は、いつ行う予定なのでしょう。夏か…それとも聖騎士パラディンの援軍を待つつもりなのでしたら…秋口でしょうか」


「いや、それは…」


 レホトネン副司令は、ヒーマン司令官をちらちらと伺いながら口籠る。


「もしお答えできないという事でしたら無理に答えていただかなくとも構いません。機密事項でしょうから」


 エレオノール隊はここでは新参者である。もちろん司令官や副司令官もエレオノールを敵のスパイであるなどとは疑っていないだろう。しかし、万が一という事もある。ここで下手に巨大要塞フルングニル攻めの日程を口にしてどこかから漏れたら敵に対処されてしまう。だからレホトネン副司令が口籠ったのだろう――エレオノールはそう考えたのだが、それはどうやら見当違いであったようだ。なぜなら、


「馬鹿な事を。我らは巨大要塞フルングニル攻めなどは行わない」


 とヒーマン司令官が言い放ったからだった。その口調は、嘘をついているようには見えなかった。


「え…それはどういう…」


「どうもこうもない。巨大要塞フルングニル攻めなど自殺行為だ。吾輩はそのような愚かな事を行うつもりはない」


「確かに巨大要塞フルングニルを落とすのは楽ではないと思いますが…それでは、何か他の手で北統王国を攻略する手筈でも?」


「いや、我々は北統王国とは現状を維持するつもりだ。聖騎士パラディン達も呼び寄せるつもりはない」


「…」


 それはエレオノールにとっては信じられない言葉だった。北統王国を攻めるのは帝国が動けない今しかないのだ。もしもこの機を逃せば…準備を整えた大将軍フィシュタル・ジェネラルが聖王国に牙を剥く事だろう。そしてそれには、帝国の同盟者たる北統王国も加わる。圧倒的不利な状況での戦いを強いられる事になるのだ。その前に、北統王国を攻略…せめてある程度叩いておかなければ聖王国の滅亡は必至に思われた。


 いったいヒーマン司令官は何を考えているのか。問いただしたいエレオノールだったが、自分はあくまで新参者。今はこれ以上異を唱える事はできなかった。

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