出撃準備5
エステルの言葉は正論だ。次の決戦に置いて、エレオノール軍が絶対に勝てるという保証はない。無論、エステルは勝つために戦略を練り、そして全力で戦うつもりだ。けれどエッカルトが無理に戦いに加わる必要はない。だが、彼女の心はすでに決まっていた。
「例え勝てるという保証がなくても、あたしは戦いたいの。…指揮官として参加できなくてもいい。一兵卒でもいいわ。どうか、あたしを戦わせてちょうだい」
「どうして?」
「あたしに勝ったあなた達がヒューゴに負けたら、あたし達の勝ちも下がるからね。ってのは、まあ、冗談として…」
エッカルトは笑みを作る。
「…あんた達の作る世界を見てみたいから、ヒューゴ・トラケウには負けて欲しくない。そのために、少しでも力になりたい。――これじゃあ、戦う理由にならない?」
イルメラ・エッカルトは見てしまった。王族と貴族の特権意識が蔓延る北統王国を…ずっと変わらないと思っていた不条理を、椿やエレオノール作り替えてしまうその様を。そして、もっと見てみたくなった。彼らの作り出す、その先を。
「いいえ、十分な理由よ。ありがとう、エッカルトさん」
エステルは頷き、部屋の隅にあるクローゼットを開く。そこから取り出したのは、一着の聖王国軍用騎士服だ。エステルはそれをエッカルトに手渡した。
「はい、これ。あなたの背丈にぴったりのはずよ。」
「え…」
エッカルトは受け取った騎士服とエステルの顔を見比べる。エッカルトとエステルでは、身長が違う。もしこの騎士服がエステルのものであれば、サイズは合わないはずだ。しかし、エステルはその疑問が発せられる前に答えを述べた。
「この服、あなたのために作ってもらっておいたの」
「なっ…!あ、あたしが戦いに参加すると申し出ると…って読んでたって事…?」
「ふふ、買い被りよ。『そうだったらいいな』と思って準備しておいただけ。戦略家って言うのはね、色々な状況を想定して用意しておくものでしょう?」
エステル・ラグランジュはにっこりと微笑んだ。




