皇帝就任
皆の視線を受け、エレオノールはしばし沈黙する。いったい彼女が何を考えているのか、その美しい表情からは窺えない。そしてしばし後、彼女は言葉を発した。
「私は…私が皇帝に相応しい人物なのかどうか分かりません。果たして、数千万、数億という人々にとって良い統治者である事が出来るのか」
エレオノールの理想は高い。彼女の望みは、この世界に暮らす多くの人々が幸せな日々を送る事だ。だからこそ彼女は迷っていた。果たして自分が皇帝となった場合、それを成し遂げる事が出来るのか。
「しかし――私は、私の仲間を信じています。ここにいる人達の事を」
自分に本当に皇帝に相応しい能力があるのかは分からない。けれど、ここにいる仲間が相応しいと言ってくれるのであれば――共に歩んでくれるのならば、遥かに高い理想であろうと、成し遂げる事が出来ると信じていた。
「ツバキ」
エレオノールは、傍の少年に視線を向けた。最も近くで自分を支えてくれた彼を。
「君は、私が皇帝に相応しい人物だと思えるだろうか」
椿は迷いなく返答した。
「うん。エレナなら…誰よりもみんなの事を幸せに出来る皇帝になれる。僕が保証する」
「…ありがとう」
エレオノールの中にあった迷いは消えていた。最も信頼する者がそう言ってくれるのならば…もはや迷うことはない。
「私、エレオノール・フォン・アンスバッハは皇帝就任を宣言します」




