最後の敵8
「はい、分かりました」
エステルに促され、椿は立ち上がる。心の中には不安があった。しかし、もう覚悟は決めている。
「少し、長い話になります。それに突拍子もない話で…信じられないかもしれません。でも、最後まで聞いてもらいたいんです」
そう前置きして、少年は話を始めた。自らの事を――すなわち、元はこの世界の住人ではく偶然この世界に来たという事実、さらには解析という能力。そして解析によって見たヒューゴ・トラケウの野望。聞く方からしたらあまりにも突拍子もない話だろう。とても信じて貰えるとは思えなかった。しかし、それでも…伝えなければならなかった。
「――以上が、僕が話そうと思っていた事です」
椿が全てを話し終えた後、会議室には沈黙が流れた。あまりに荒唐無稽な話で誰もが呆れているのだろうか…そう考えていた椿だったが、エレオノールが沈黙を破る。
「色々と伝えたい事はあるけれど…私から一言、いいだろうか」
エレオノールと椿の視線が交差する。少年は、ただ無言で頷いた。
「ツバキ――ありがとう」
エレオノールの口から述べられたのは、意外な事に感謝の言葉だった。




