聖都再訪3
椿がまず向かったのは、貴族街だった。舗装された広い道の両端には庭付きの豪華な邸宅が建ち並ぶ。しかし、以前来た時と違いそこは奇妙に静まり返っていた。
(人通りが…ほとんどない…)
貴族街とは言っても、貴族だけで成り立っている訳ではない。屋敷に出入りするメイドや執事、庭師といった者達が往来を歩いているのは普通の事だ。しかし、今はそういった人間の姿が見えない。貴族たちの乗る馬車にも、一度もすれ違わなかった。
では、貴族街から人が消えてしまったのかと言えばそうではない様子だ。屋敷の窓から人影がチラチラと見える事もある。人は住んでいる…が、外には出ないという状況なのだろうか。そんな事を考えながら進み、目的の場所に着いた所で――。
「おい、そこの子供達、さっきから何をしている」
振り向けばそこには訝し気な顔をした若い兵士が立っていた。もっとも、椿は先ほどから兵士に見られている事は分かっていたために落ち着いて返答を返す。
「すみません、道に迷ってしまって…」
「道に迷った?道に迷って、こんな貴族街に来たのか?」
「はい。僕たちは親戚に会うために聖都に来たんです。事前に教えられた通りの道を進んできたはずなんですけど…」
「どうやって来たんだ?」
「聖都東広場から続く大通りを真っ直ぐ進んで、騎馬像の横を左に曲がって、坂道を越えて来たんですけど…」
「ああー、そりゃあ道を間違えたな。騎馬像の横にはもう一本、脇に逸れる道があるんだ。そっちが職人街の方に続いてる。あそこ、間違える人が多いんだよな…」
「そうなんですね。すみません、はじめて聖都へ来たので分からなくって」
椿は、人の良さそうな兵士を騙す事に少しだけ申し訳なさを覚えつつ返答する。兵士の方はと言うと、そんな椿の心情など全く知る由もなく、ドンと自らの胸を叩いた。
「別に謝る必要はないって。よし、俺が職人街まで案内してやるよ」
だが、そこで若い兵士の後ろに別の兵士が現われた。30をいくらか過ぎたと思われる中年の兵士だ。
「おい、何をサボってる!」
中年兵士は厳しい口調で若い兵士を叱りつけた。




