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出立6

 聖都へ到着するまで、椿とハティは何度か馬車を乗り換えた。二人はあくまで親戚に会うために旅をしている――…という建前だ。専属の馬車に乗っていれば怪しまれる事になる。途中からはいわゆる乗り合い馬車に乗り、聖都を目指していく事となる。


(意外と…治安はいいみたいだ…)


 ミュルグレス・レイが聖都クーデターを成功させてからすでに時が経っている。さすがに王族が殺された事は国民にももう知れ渡っているはずだ。それ故に聖王国領内は混乱を来たしているのかと思われたがそのような様子は見られない。聖都へ行く途中で目にする街、村も少なくとも表面上は落ち着いているようだった。


(でも…案外そんなものなのかもしれない)


 聖王国の国民と言っても、そのほとんどは王の姿など見ないままにその一生を終える。無論、例え姿は見えずとも王の事を慕っていた者はいるだろうし、そういう者は今回の事態でそれなりの衝撃は受けているのだろうが…今の所、それで生活に何か直接的な変化があった訳ではない。農民は農作業をして、職人は物を作る――そんな当たり前の毎日を以前と変わらず行っているだけだ。もっとも、商人に限って言えば政情が変化した事で交易ルートの変更など直接的な影響が出ているだろうが。しかし、それにしても国交が途絶えていた聖王国と帝国が実質的に統合された事で商品流通もこれから活発になっていくはずだ。


 つまり、ヒューゴとミュルグレスが行った二カ国同時国家転覆(クーデター)は一般民衆に対して不利益はもたらしていない。…少なくとも、今の所は。


(ヒューゴさんやミュルグレスさんは…良い国家を作り上げようとしているんだろうか…?)


 その可能性は十分にある。だが…少年は、その心中に一抹の不安を感じていた。

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