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暗雲9
「果たして我々は、ヒューゴ・トラケウと戦うべきなのでしょうか。…少なくとも、私は本当に戦うべきなのか、迷っています」
エレオノールの問いかけは、決して意外なものではなかった。一同の心の奥底にあった考えだ。しかし誰もそれを口に出来なかった。
「もしヒューゴ・トラケウが善政を行うのであれば…我々は、協力するべきだと考えます」
ヒューゴは聖王国の王族を殺した。聖王国の国民であるこの場の面々からすれば、それは許すべきではないのだろう。それに何より、
(レイアさんも…殺されたかもしれないのに)
椿は思う。肉親のいないエレオノールにとって、師匠と慕うレイアは家族のようなものだ。そのレイアがヒューゴ軍に殺された可能性が高い。感情的な面で言えば、許したくないと思うのが当然だろう。
(でも、エレナはそれを押し殺して…民衆の事を第一に考えて発言してるんだ)
ヒューゴ軍と戦うとなれば、当然両軍に犠牲者が出る。だがヒューゴと手を結ぶ事が出来ればそれは回避される。エレオノールは、可能ならば後者の道を選びたいと宣言していた。




