暗雲3
「エステルさん…他にご用件があるんですよね…?」
「そうね」
椿の問いに、エステルは静かに頷いた。その表情は、今まで椿が見た事もない程に深刻だった。あのエステルがこんな顔をするのかと驚く程に。
「グロスモント卿や、エレオノールちゃん…北統王国統治軍の幹部の面々と話がしたいわね。もちろん、ツバキ君にも同席してもらいたいわ」
「分かりました、すぐに呼びます」
椿は迅速に、しかしあくまで冷静な態度を崩さないように努める。エステルがここに来た理由はただ事ではない、それを一刻も早く知りたい…だが、取り乱す訳にはいかない。軍に余計な混乱を招く可能性があるからだ。
(だからこそ、エステルさんも何気ない風を装ってこの北統王都に来たんだ)
椿は、すぐさま北統王国軍の幹部達が集まるよう手配した。そして、間もなく本営内の会議室に司令官のオスカーを始めとする幹部達が集う事となった。
「突然集まってもらって悪いわね。挨拶は省略させてもらうわ」
会議室で北統王国統治軍の面々と向かい合うなり、エステルは言った。
「これは私の諜報網を駆使して手に入れた情報で、まず間違いはないと思ってもらいたいわ。そして…落ち着いて聞いてちょうだい」
エステルがこんな風に長々と前置きをするのは珍しい。それだけ重大な事態が起こったという事だろう。そう思い身構える椿だったが、エステルが次に発した言葉にはやはり大きな衝撃を受けざるを得なかった」
「――聖王国首都、聖都は約半月前に帝国軍によって陥落したわ。王族もほぼ全てが殺された。聖王国は、実質的に滅んだといっていいわね」




