暗雲2
「やっほー、ツバキ君にハティちゃん」
エステルは椿と目が合うと、笑顔を浮かべ手を振ってきた。しかし椿としては突然現れたエステルに戸惑いを隠せない。
「あれあれ?どうしたの?ひょっとしてエステルお姉さんの事、忘れちゃった?悲しいなあ」
「そんな事はないですけど…どうしてここに…?」
「いやあ、みんなが元気かなーって思ってねー…抜け出して来ちゃったのよ。はい、ハティちゃん。おみやげ」
「…なにこれ?」
懐から封書を取り出し、ハティに渡すエステル。怪訝そうにそれを受け取った少女だったが…、
「ハティちゃんの弟妹からのお手紙」
そうエステルに説明されると、
「わっ…!」
と、飛び上がらんばかりに喜び、封書を開けた。その中に入っていたのは…正確には手紙ではなく、絵だった。子供っぽいタッチで、ハティや椿と思われる人物が描かれている。巨大要塞にいるハティの弟妹達が描いたものだろう。
「えへへ…」
ハティは頬を緩め、弟妹達の描いた絵に頬ずりする。その様子を見ながらエステルは嬉しそうに言った。
「いやー、そんなに喜ばれると、私としてもお手紙を届けた甲斐があるわー」
椿もまた、心から喜んでいるハティの表情に嬉しくなる。だが同時に――胸の奥では胸騒ぎを覚えてもいた。エステルが自ら北統王都まで来た本当の理由は、様子を見るためでも手紙を届けるためでもない…おそらく、他の理由があるのだと。そんな確信めいた予感があった。




