北統王国・王宮5
「ほう…敗戦の責任は自分自身にある、と…」
バウテンの言葉を繰り返しながら北統国王トールヴァルドは自身の口髭を撫でた。もっとも、体質ゆえなのか彼の髭は非常に薄い。
「では、先の戦いに負けた罪…貴様に全て被って貰う事にしようか」
「どういう…意味ですか、国王陛下」
トールヴァルド王の言葉に不穏な気配を感じ、バウテンの横に控えていたエッカルトが問いかける。
「つまり、だ…国王である余は聖王国と戦う気はなかった。むしろ聖王国と友好を結びたかった。しかし、軍のトップであるバウテンが勝手に暴走し帝国と手を組み聖王国軍に歯向かった…と。そういう事にする、と言っているのだ」
「なっ…!」
そんな驚きの声を上げたのは、エッカルトだけではない。この場にいる北統軍人、その全ての表情に驚きの色が浮かんでいた。
「バウテンの暴走という事にすれば、聖王国軍も余に対し深く責任を追及して来ることはないだろう。ここに居並ぶ宰相、大臣達もまた責任追及から逃れる事が出来る。つまり…お前ひとりが泥を被れが多くの者が救われるという事だ」
そう告げるトールヴァルドの口元には、余裕の笑みすら浮かんでいた。




