千人隊編成
椿はひとり、大要塞に来ていた。何もせず屋敷で待っている事に耐えられなかったためだ。もっとも、ここに来たとしても何が出来るという訳でもない。
(それでも、もしかしたら何かエレオノールの役に立てる事があるかもしれない)
そう考えてエレオノールの後を追って来たのだが…。
「おっと、この先は工事中だ。悪いが回り道してくれ」
恰幅のいい兵士が手を突き出して椿を制した。エレオノールが現在いるはずのキルヒナー城。そこへ通じる道は、工事中との事で通行止めだった。仕方なく、回り込んでキルヒナー城を目指す。しかし、
「あれ…ここ、どこ…?」
キルヒナー城の尖塔を目指して進んでいたはずが、入り組んだ道に迷い込んでしまい現在地がどこだか分からなくなってしまった。しかも、建物がせり出していて尖塔がどこにあるのかも判断できない状況だ。
「参ったなあ…」
感を頼りに道を進んでみるも、同じような所を堂々巡りしているようで一向に開けた場所に出ない。人に道を聞こうにもすれ違う人がいない…どうやら、要塞内に所狭しと建てられた建物群、それらが作り出した路地裏のような場所に迷い込んでしまったようだった。
このままでは、エレオノールの役に立つどころか迷子になって迷惑をかけてしまいかねない。これはマズい…と焦りかけた時、喚き声のようなものが耳に入った。どうやら、数名の軍人が口々に何か叫んでいるような…そんな声。
(…あっちの方だ)
声は、二股に別れた路地の右方向から聞こえてくる。そこがどこに通じているのかは分からないが、少なくとも人がいる事は確かだ。その人に道を聞こう…。そう思って走り出す。路地の先に開けた場所が見えた。――なんだ、こんな近くに広場があったのか。そんな安堵と共に路地を抜けた先は――厩舎の前だった。木製の庇の下に何頭かの馬が繋がれているのが見える。椿はそちらへ歩いて行こうとして――、
「おい、危ないぞ!」
という声を受け、慌てて周囲を見回した。すると、椿の左手側…物陰の奥から、体長3mはあろう巨大なトカゲが一頭、のっそりと姿を現した。




