終盤戦50
(状況は、まだ…決して有利じゃない)
椿もまた、必ずしもこの戦いが終わってはいない事をその肌身で感じていた。
ヴォルフラムが討たれたと耳にした当初、帝国兵の間には大きな動揺が走った。しかし、それがさらに広がるにつれてむしろその動揺は収まった。
(きっと、誰かが動揺を鎮めたんだ。おそらく…大十字の誰かが)
その予想は的中していた。フェリクス総司令官代理として帝国兵をたくみに指揮。
さらにエーミールはユーウェインと互角以上を戦いを演じている。本来ならばカムランの副長として指揮を代行するはずのユーウェインは、これで自らの戦いに専念せざるを得なくなってしまう。
現状は、むしろ帝国軍有利と言って良い。だが…、
「皆さん、ここは凌いでください!」
椿は聖王国兵の間を駆けまわり、兵隊を鼓舞した。そう、確かに現状は帝国軍有利――だが、それは今目の前の戦場に限った話だ。
(僕達はひとりで戦ってるんじゃない。ここをさえ凌げば――きっと、状況は好転する…いや)
少年は脳裏に思い浮かべる。エマを、カイを、リヒターを、ホフマンを、オスカーを…エレオノールの姿を。
(ここを凌ぎ切れば…僕たちの勝ちだ…!)




