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終盤戦38
ヴォルフラムの剣が椿に迫る。それはまさしく『死』そのもの。体が強張り、呼吸が止まる。しかし、その瞳はしっかりと前を見据えている。
(逃げる訳には…いかない!)
椿は両腕に渾身の力を込め、自らの剣でヴォルフラムの攻撃を受け止めた。
「――ッ!」
剣ごと上半身が全て吹き飛ばされたと錯覚する程の衝撃。だが、
(生きてる…っ)
ヴォルフラムの攻撃は、椿の構えた剣を打ち砕いていた。だが、椿の体重が軽かった事が幸いした。剣を砕かれながら椿は大きく仰け反り、その直撃を回避する事に成功していた。
そしてヴォルフラムは剣を振り下ろしたその瞬間、言い知れぬ違和感を覚えた。それは長年戦場に立ち続けてきた人物のみが持つ、嗅覚とでも呼ぶべき直感。だが、その時にはすでに暗殺者の少女はヴォルフラムの命に手をかけようとしていた。
(殺った…!)
カムランの攻撃によって視力を失ったヴォルフラムの右目。その死角から、ハティによる必殺の一撃が繰り出された。




