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アベレージ90

 いわゆる『異世界転生もの」では、転生した際に何らかのスキルが与えたれたり、能力が強化されるのが定番となっている。椿も、そういった何らかの恩恵に預かっているのではないかと考えてはいたが…。


(それがまさか、『解析』スキルだなんて)


 どうやら、椿に与られた能力は対象のステータスを可視化するものらしい。それも、椿の慣れ親しんだ『家康の覇道』風の。


(けど、解析なんてできたところで何の役にも立たないじゃないか…)


 正直なところ、椿の心の片隅には野心があった。


 ――せっかく異世界に来たんだから、何らかの形でのし上がってやりたい。


 そんな野望だ。


 そしてもう一つ、野心というにはささやかな願いも芽生えていた。それは、


 ――エレオノール…エレナの役に立ちたい。


 という事。


 エレオノールには命を救ってもらった。その恩に報いたいと思っていた。しかし、人の能力を解析するだけのスキルでは彼女の役に立てそうもなかった。


「はあ…」


 思わず、ため息を吐いてしまう。


「ん…やはり、相当疲れているようだね」


 エレオノールは、椿のため息を疲れから来るものだと思ったようだ。


「今日はもう休んだ方がいい」


「…うん」


 疲れたからため息を吐いたのではないが、疲れている事自体は事実だった。椿はベッドに横になる。すると、瞬く間に眠気が襲ってきた。深く深く沈み込んでいくような感覚と共に、椿は眠りに落ちた。






「朝…か…」


 窓から差し込む日差しで目を覚ます。一瞬、ここがどこだか分からなくなって…ああそうか、異世界に来たんだった、と椿は思い出した。


「おはよう」


 エレオノールの声だ。


「おはよう、エレナ…」


 そう言ってエレオノールの方に視線を向けて…硬直した。エレオノールがその身に纏っているのは、わずか2枚の布だったからだ。具体的に言うと、ブラとパンティだ。いや、ここが異世界である事を考えると正確にはブラとパンティではないのかもしれないが…ともかく、それに類するものだった。


 朝の光を浴びるエレオノールの体は、輝いて見えた。こぼれ落ちそうな程にたわわな胸、きゅっと引き締まったウエスト、むっちりとした肉感がありながら形のよいヒップ。下着自体は派手なものではなかったが、むしろそれがエレオノールの肉体の美しさを際立たせた。


 ――もしもこの世に女神というものが存在するのなら、こんな見た目をしているのかもしれない。


 椿にそんな事を思わせる美しさがあった。


「んん?どうしたんだい?」


 思わず見惚れていた椿を不思議に思い、エレオノールが顔を近付ける。美しい顔と…そして、たわわな胸が椿の眼前に迫る。

 

「い、い、いや、別に…どうもしてない…けどっ」


 そう言い訳を試みるが、視線はチラチラとエレオノールの胸元へ泳ぐ。そこに目を向けるのはよろしくないと分かっているものの、男性としての本能でついつい視線が誘導されてしまうのだった。


「ふふっ。君は面白いな」


 そんな椿の心の内など知る由もなく…エレオノールは、親しい者にだけ見せる柔らかい笑顔を見せた。


「さあ、朝食を取ろう。君もお腹が空いているだろう?」


 食堂は、数百人は入れるであろう広さがあった。帝国軍の兵士たちが長机の前に置かれた椅子に腰掛け、スープを啜りパンをかじっている。


 エレオノールと椿もスープとパンを受け取ると、椅子のひとつに腰掛けた。


「君の口に合うといいんだけど」


「おいしい…!」


 正直な感想だった。ライ麦(もしくはそれに似た品種)で作られたパンは固くて、スープは牛肉と玉ねぎを煮込んだだけ…という、とても洗練されたものとは言い難い食事。しかし、それはそれで野趣溢れる旨さがあったし、何よりも空腹だった。


 思い返してみれば、この世界に来て初めて食べたまともな食事だった。昨日は、驚きと疲れの方が勝り食事を取りたいという気持ちすらどこかへ吹き飛んでいたのだ。


「ふふ、良かった」


 椿が心から美味しそうに食事を食べているのを見ると、エレオノールも笑みを浮かべながらスープを口にした。


 食堂の椅子には空きが目立った。今は城砦の中にあまり人はいないようだ。椿は左目を閉じる。それが、スキル『解析アナリティクス』の発動条件である事はすでに分かっている。


 食堂にいる兵士ひとりひとりに目を向ける。彼らの頭の上にステータスが浮かんだ。例えば、椿の斜め向かいにいる大柄な兵士のステータスは、


 指揮30 武力76  知謀29  政策06


 どうやらこの人物は完全な武力偏重型らしい。


 別の人物に目を向けてみる。椿の左手にいる口髭を生やした男だ。


 指揮66 武力61  知謀68  政策62


 全てのステータスが60台でまとまっていた。バランス型だ。


 食事を取りながら、椿は兵士たちを観察していった。どの人物のステータスも、だいたい70未満。70以上の能力値がふたつ以上ある者は珍しく、80以上の能力持ちとなるとほとんどいない。


(まあ、こんなもんか)


 現実の『家康の覇道』には2000名を超える武将が登場するが、その中で80以上の能力値を持つ者は稀だった。おおよそ、70以上の能力があれば『役に立つ武将』と判断される。90以上の能力持ちなど、その分野におけるエースとなれる存在だ。


(だけど…)


 目の前のエレオノールを見る。その能力値は、


 指揮94 武力88 知謀79  政策99


(90超えのステータスがふたつ、うちひとつは限界値カンストの99。そして能力値合計360、つまり全能力値の平均アベレージが90って…)


 ここまで高いステータスの武将は、『家康の覇道』でもほんの一握りしかいない。織田信長や武田信玄など、誰もが知る名将中の名将と比肩しうる能力だ。


(ひょっとしてエレオノールさんって…物凄い人なんじゃ…)

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