終盤戦17
ジークフラムの乗る竜が猛烈な勢いでレイアに迫る。これだけの勢いがあれば爪も牙も必要ない。竜の肉体のどこかが触れただけでレイアの体は吹き飛び重傷を負うだろう。だが――エレオノールの姉弟子たる女剣士はまるでうららかな春の平原を歩むかのような平静さだ。そして、先ほど受け取った大剣を構えている。自身の身長を遥かに超える大剣を事もなげに構えるとは流石だが、とてもまともに振れるとは思えない。
「俺自らブッ潰してやるよォ!」
ジークフラムが斧槍を振り降ろす。これを凌ごうと思えば、大剣を捨て逃げるしかないだろう。だが…レイアは、斧槍に向かって大剣を振り降ろした。
重厚な金属同士がぶつかり合う轟音が周囲に鳴り響く。周囲で戦う兵達は、何が起きたのか一瞬理解できなかった。しかし、ジークフラムの瞳ははっきりと取られていた。自らの振り降ろした斧槍にレイアの大剣がぶつかり…そして、彼女が弾き飛ばされたのを。
「カスが…!」
ジークフラムの口から嘲りの言葉が漏れる。結局レイアは、身に合わぬ大剣を制御しきれず自滅した…彼の目にはそう映った。だが、レイア・リヒテナウアーの動きは止まらない。レイアはジークフラムの斧槍を正面から受けた訳ではない。やや斜めに、弾くような形で迎撃を行った。その結果彼女の体は大きく横に弾かれ…そして、その勢いを殺さぬまま半回転。
「はぁああ!」
裂帛の気合と共に、弾かれた勢いを利用し大剣を振るう。そして、その切先は――竜の脚を深々と斬り裂いた。




