終盤戦12
「舐めているのか…!」
カムランは彼にしては珍しく、激高を露わにしていた。ヴォルフラムはというと、またこの男にしては珍しく神妙な面持ちを浮かべている。
「…すまなんだな」
そう言って、手に持った長剣を鞘に納めた。
「お主の実力を見誤っておったわ…」
ヴォルフラムは自身の騎乗する馬の馬鎧の中に手を入れた。彼の乗る馬は、通常の馬とは比べ物にならない巨躯を誇る。そうでなければその巨体を支え走る事など叶わないからだ。そして、その馬が身に纏った馬鎧の中に隠されていたのは――長大な剣。いや、長いだけではない。分厚く、それでいて鋭い。
カムランの持つ大剣、オスカーの両手剣すら上回る巨大剣だった。常人がまともに振れるものではない。力自慢でさえなんとか両手で振り回すのがやっとというその武器を――ヴォルフラムは、片手で引き抜いた。
「それがヴォルフラム・フォン・クレヴィングの真の愛剣という事か」
「まあのう…この剣でなくては、武器が耐え切れず我が全力を振るえんのでな」
「ではなぜ最初からその剣を使わない…!」
カムラン胸にあるのは、まず第一に勝利とその先の平和。それは揺るがない。だが、必ずしもそれだけ求めて戦っている訳ではない。彼もまた、一介の騎士。己の全力をぶつけ、対等に戦える好敵手を求めていた。それこそがヴォルフラムだと思っていたのだが…実は手を抜かれていたという事実に、怒りを覚えずにはいられない。
「――言ったじゃろう、お主の実力を見誤っておったと。せっかくの強敵、最初から全力で戦って潰してしまっては勿体ないと考えておったが――そんな余裕はなかったようじゃ」
ヴォルフラムは巨大剣を両手で持ち、自身の眼前で刃の切先を天に向けて掲げた。
「帝国軍大将軍ヴォルフラム・フォン・クレヴィング――参る」
その声にはヴォルフラムが常に纏う余裕もなければ猛々しい闘気もない。ただただ、目の前の相手に対する厳かな経緯のみがあった。それを受け、カムランもまた己の剣を眼前で掲げ居住まいを正した。
「聖王国軍正義の聖騎士カムラン・フォン・レオンハルト――参る」
互いに侮りも手加減もない、真の決戦が今こそ開始された。そしてその周囲で戦う両軍の兵士もはっきりと感じ取った。この戦いは、どちらかが死に至るまで終わる事はない、と。




