終盤戦8
八万の中央部隊ではなく、僅か二万しかいない右翼部隊の指揮官を務めると言い出したのは他でもないヴォルフラム自身だ。その理由は決して戦術的なものではない。ただ単に、
「カムランと戦う前にひとつ肩慣らしをさせい」
というものだった。もし中央の指揮を取れば、すぐさまカムランと真っ向勝負という事になるだろう。だが、ヴォルフラムとしてはその前に誰かを血祭りに上げ準備運動としておきたかった。
肩慣らしのために屠られたマーハウスを不幸と見るべきか、それともマーハウス程の実力者を肩慣らしで屠ったヴォルフラムの膂力を異常と見るべきか。いずれにせよ――ヴォルフラムは右翼部隊として出撃し、そしてカムラン軍騎馬部隊長、マーハウスを一撃で切り伏せた。
「よし…!」
と声を上げたのは、一時的にヴォルフラムに指揮を預けられている青年…フェリクスである。あくまでヴォルフラムがマーハウスを討ち取ったのは自分自身の都合でしかなかったが、結果的には帝国軍を利する事となった。
何しろ、カムラン、ユーウェインに次ぐ№3が早々に戦闘不能となったのだ。
「これで敵軍の戦闘力は、大きく落ちる…。――中央部隊、左翼部隊!突撃!」
中央部隊にいるフェリクスが指示を飛ばす。敵に指揮系統に穴が空いた今こそ、攻め入るに好機。
一方のカムラン軍。
「マーハウス…どうか生きていてくれ」
ヴォルフラムのいる右翼部隊へと向かいつつ、カムランは小さく呟いた。その心中には、もっと早く気が付いていれば――という後悔がある。だが、後悔してばかりもいられない。
「どうされますか、総司令官…!?」
側近がカムランに問いかける。マーハウスが討ち取られ、動揺した所に敵の総攻撃…。状況としては非常にまずい。
「い、一度ユーウェイン副長と合流して体勢を立て直しますか?」
側近としては、それが無難な選択肢に思えた。今はまず体勢を立て直し、マーハウスが欠けた事で乱れた命令系統を再構築しなければ。しかし、カムラン・フォン・レオンハルトの考えは違った。
「いや…僕はこのまま進む。ヴォルフラムの所へ」




