終盤戦7
カムラン軍騎馬部隊長、マーハウス・ザルツァはやはり優秀な指揮官だったと言うべきなのだろう。並の指揮官であれば、臨戦態勢に入ったヴォルフラムがこちらに近付いてきたというだけで恐慌状態に陥りかねない。にも関わらず、彼は剣を抜き戦闘態勢に入った。だが、それが彼の限界であったとも言える。
悪鬼のような表情でヴォルフラムが近付いてきたかと思うと、まるで竜の突進でも受けたかのような――いや、それ以上の衝撃を受けて視界が暗転した。
いったいどれ程の間気を失っていたのだろう。一分程度か、それとも十分以上か。次にマーハウスが気が付いた時には、目の前にあったのは青い空。
「い、いったい、何が…?」
「マーハウス部隊長!動かないでください!命に関わります!」
聞こえてきたのは彼の部下の声。だが、動くなと言われても今は戦闘中だ。戦わなければならないだろう。そう思って体を動かそうと思うが…激痛に襲われ、動かない。
「なんだ…?」
何とか顔だけ動かし、体に視線を向ければ…自身を覆う板金鎧は肩口から脇腹にかけて斜めに断ち斬られ、そこから血が溢れ出している。
「なっ…な、なぜ俺が…?」
「憶えていられないのですか…?」
驚いた様子で部下がマーハウスの顔を覗き込む。
「マーハウス部隊長はヴォルフラムと相対、応戦虚しくも…破れてしまいました」
「…!」
応戦虚しくも、と部下は言ったがおそらくはただの一撃で自分は敗れたのだろうとマーハウスは察しがついた。
手元を見てみれば、マーハウスは自身の得物である長剣を握ったままだった。しかしその半ばから断ち斬られている。おそらくは、ヴォルフラムはただ一撃でマーハウスの剣を断ち斬り、そのままの勢いで板金鎧まで断ち割ったのだろう。それでも即死ではなかったのはマーハウスだからこそ、か。
(そんな、俺が…俺が…ただの一撃で…!)
マーハウスは自身の実力に誇りを持っていた。聖騎士に次ぐ実力の持ち主だと周囲には言われてきたし、自分でもそれが事実だと思っていた。しかし、世界最強たるヴォルフラムの前で、それは…塵芥に等しかったという事か。しかしそんな絶望に浸る余裕も彼にはなかった。自身の力不足などよりもっと大きな事態に気が付いたからだ。
「カ、カムラン総司令官は!?わ、我が軍は!?」
「はい、カムラン総司令官は――」




