中盤戦24
「竜とまともにやり合うな…!一頭に対して複数で当たる事、可能な限り乗り手を狙う事を心がけてくれ!かといってまとまりすぎるなよ!密集してると巨大竜にまとめて薙ぎ払われる」
リヒターは軽装歩兵部隊の間を駆けまわりながら指示を飛ばす。百人隊単位に分散しての迎撃――これが、椿によって考えられた対竜兵対策であった。とはいえ、小部隊単位で連携を取りながらの戦闘というのは並の指揮官に出来る事ではない。小部隊での奇襲、部隊同士の連携を得意とするリヒターだからこそ可能な戦法だった。
(けど、それでもやっと五分かよ…!)
竜に対して有効な戦法を取ったとしても、状況はようやく互角といった所。何しろ、相手には竜兵以外にもエルヴィン軍の騎馬隊、歩兵隊がいる。竜に対処しつつそれらとも戦わなければならないという状況では、なんとか五分に持って行くのがやっとだった。
しかも、敵はまだ主力とも言うべき大型竜を投入していない。その巨体でこちらに威圧感を与えつつ、やや離れた位置で様子を伺っている。
(アンスバッハ隊長を発見するまで、大型竜は待機って事か)
リヒターのその読みは当たっていた。エレオノールを確実に仕留めるため、その存在を確認するまで大型竜は待機…それが特務竜兵隊の方針であり、その判断は妥当だろう。しかし――、
「お待ちください、ジークフラム隊長!エレオノール・フォン・アンスバッハの所在はまだ明らかになっていません!」
「うッせぇんだよ!さっきからチョロチョロ駆けまわってる奴…ヌガザ城砦でも見た記憶がある…目障りだ。あいつをブッ殺す!――ジークフラム・ガイセ、出るぞ!」
ジークフラム・ガイセに妥当な判断などというものが通用するはずもない。部隊の方針も、副長であるマルガレーテの制止をも振り切り、特務竜兵隊隊長は出陣した。ヘルムート・リヒターの命を奪うために。




