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開戦25

 帝国軍弓兵部隊長――ロウグが矢を放つその直前。彼の元に一本の矢が飛来した。そしてそれは、狙い(たが)わずロウグの右腕…その中でも甲冑に覆われていない内側に直撃する。


「ぐっ…!」


 突如右腕に受けた衝撃で、ロウグは弓を取り落とす。そして自身に向けられ矢が放たれた方向に目を向けた。そこにいたのは――、


「よっし、命中!――カイさん、大丈夫っすか…!?」


 ロウグに対して矢を放った張本人…青髪の少女。


「エマ・リッツか…!」


「カイさん…無事で良かったでっす!」


 カイの無事を確認するや否や、エマは後方に引き連れていた弓兵部隊に命令を下す。


「弓兵隊…敵弓兵に向けて一斉射撃!」


 号令一下、敵に向けて豪雨の如き勢いで矢が降り注ぐ。


「く…こちらも敵弓兵に向けて斉射!」


 手に矢傷を受けながらもロウグは弓兵に応射を命じる。弓兵と弓兵による矢の応酬が始まった。


「…よく来てくれた、助かったぞエマ・リッツ」


 弓兵同士の戦いが始まり、ようやく息を整える事の出来たカイがエマに感謝の言葉を述べる。


「そ、それはいいんっすけど…カイさん、ちょっと出過ぎっすよ…!心配したんっすからね!」


「だが、オレの特攻に敵の注意が向けられたせいでお前もここまで来れた…違うか?」


「そ、それはそうっすけど…」


 事実、本来なら重装歩兵部隊の援護を行うはずの帝国軍弓兵部隊はカイの相手をする事となった。そのためにエマ達もここまで全身する隙が出来たという事だ。


 否、エマ達弓兵部隊だけではない。カムラン配下の重装歩兵部隊長、サグラモールの率いる重装歩兵部隊も敵のすぐ後ろまで来ている。全ては、カイがこの戦場の注意を集め、敵の戦力を引き付けたからこそ起きた結果だった。


「オレの計算通りだ。さあ…もうひと暴れしてツバキ達の道を開くぞ、エマ・リッツ!」


 自身が単独で特攻し、敵の注意を引きつける――策と言うには、あまりに無茶な策。きっとミュルグレスやウルフヘレであればこのような手は使わないだろう。だが、彼女には…カイ・ネヴィルにとっては、これこそが自分の進むべき道に他ならなかった。

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