開戦24
「くそっ…なんなんだ、あの男は…!」
粘りを見せるカイに、帝国軍弓兵部隊長は苛立ちを隠せない。帝国軍でも練度の高いと言われるエルヴィン配下の弓兵部隊。それがたったひとりの人物を仕留める事が出来ない。受け入れがたい事実だ。
「ええい、かくなる上は…。――おい、弓を寄越せ!できるだけ強い弓だ!」
部下に命じ弓を持って来させると、それに矢をつがえ構えを取った。
「俺自らが仕留めてやるわ、カイ・ネヴィル…!」
帝国軍エルヴィン・グリュックス配下の弓兵部隊長である彼の名はロウグ。貴族の生まれではなく元々は一介の弓兵だった。しかしその弓の腕前と弓兵達を扱う巧みな指揮により弓兵部隊長まで上り詰めた人物である。
もっとも、数年前に肩に矢を受け負傷。その怪我が元で弓使いとしては引退し現在は指揮官としてのみ活躍していたが。
(だが、今この一瞬のみ――俺も現役の弓兵に戻ってやる!)
弓を引くと肩の傷が痛む。下手をすれば肩が壊れ腕が上がらなくなる危険性すらある。しかし――そんなものは知った事ではなかった。
(ここまで俺の弓兵部隊をコケにされて黙っていられるか!)
弓を引き絞り、カイの甲冑…その中でも亀裂の生じている部分に狙いを定める。
(防ぐ事の叶わぬ一撃…くらうがいい!)
渾身の念を込めて放たれた一矢。しかし、それがカイの体に命中する事はなかった。




