開戦18
「槍を構え続けよ!絶対に持ち場を離れるな!」
「我らはヴォルフラム大将軍、エルヴィン上将軍配下の精鋭ぞ!恥ずかしい真似は見せるんじゃねぇぞ!」
両軍が接触する直前――帝国軍の重装歩兵部隊、その下級指揮官達が配下の兵を鼓舞する。
槍を持った重装歩兵部隊同士の先頭は、基本的にあまり派手な戦いにならない。騎馬のような疾風怒濤の突撃もなければ、弓のような飛び道具もない。重い鎧と長大な槍を持った重装歩兵同士が隊列を組み、力任せに押し合う――それが重装歩兵部隊同士の戦闘だ。それ故に、試されるのは体力、そしてどのような状況でも諦めない粘り強さ。
「敵までの距離、50、40――」
帝国軍の先頭に立つ兵が、迫りくる聖王国軍重装歩兵部隊との距離を目測しながら叫ぶ。
「30!20!10!」
「よおし、まもなく接触だ、しっかりと踏ん張れ――」
と、中級指揮官が叫んだその時。聖王国軍の中からただひとり、駆け出して来る者があった。槍を持ち重装に身を包んだ歩兵だ。兜の隙間から覗くその瞳は、まるで得物を狙う鷹のように鋭い。
「なんだ!?」
「馬鹿が!ひとりで飛び出て何になる!」
「迎撃しろ!」
帝国軍重装歩兵が口々に叫ぶ。十数本もの槍の切先が、飛び出してきた敵重装歩兵に対して向けられた。
「はぁあああ!」
聖王国重装歩兵は気合いと共に槍を振り上げる。そして、自身に向けて突き出された槍を悉くはじき返した。さらす振り降ろしを帝国軍中級指揮官の頭に叩きつける。そして、まだ終わらない。暴風の如き勢いで槍を振り回し、数人の兵を纏めて薙ぎ倒した。
「な、なんだこいつ…」
驚きの表情で自身を見やる帝国軍兵士を尻目に、その重装歩兵は叫んだ。
「憶えておけ!オレの名はカイ・ネヴィル――。エレオノール・フォン・アンスバッハの配下にしてツバキ・ニイミの槍だ!」
基本的に、重装歩兵の先頭は派手な戦いにならない――が、しかし。それはあくまで基本的にという話に過ぎない。信仰の聖騎士カイ・ネヴィルに…そのような常識は当てはまらなかった。
「さあ、聖王国重装歩兵…オレに続け!」
カイの勢いに焚きつけられるように、聖王国軍重装歩兵部隊が帝国軍に攻めかかった。




