開戦7
ロスダウル平原の戦いにおける聖王国軍の配置は以下の通り。
中央第一軍を指揮するは総司令官のカムラン。副長兼軍師にレイア。もうひとりの副長にはユーウェイン。
中央第二軍の軍団長はエレオノール。副長にカイ、そしてエマ。
右翼軍の軍団長はミュルグレス。副長はウルフヘレとランスロ。
左翼軍の軍団長にはオスカー。副長はイゾルデとガレス。
それぞれの隊の副長には聖騎士が一名、元から隊の副長を務めていた者が一名という構成だ。
さらにエレオノール率いる中央第二軍のみに視点を向ければ、軍団長であるエレオノールが直接指揮する騎兵が一万五千。カイの率いる重装歩兵部隊が一万五千。エマの率いる弓兵隊が五千。リヒター率いる軽装歩兵部隊が一万。ホフマン率いる騎兵隊が五千という形だ。
エレオノールの率いる騎兵とカイの率いる重装歩兵がそれぞれ一万五千ずつ。これがこの軍における主戦力であり、それを他の三隊が援護する…という展開が予測された。しかし、あくまで予測は予測。戦場ではいつどのような事が起こるか分からない。そして、今まさにその予想外の事態が起きつつあった。
「これは……?」
聖王国軍左翼副長、イゾルデ・ファストルフは眉をひそめる。彼女は敵軍の異変に真っ先に気がついた人物の一人だった。
「敵の行軍が……遅くなったみたいね……」
目の前の敵、バウテン上将軍率いる敵軍右翼の行軍はいつの間にかかなりゆっくりとしたものに移行している。まだ互いの軍がぶつかるにはかなりの距離があるにも関わらず――だ。
「何かの策でしょうか…?」
ガレスが疑問を漏らす。左翼のシャルンホスト軍に続いて右翼のバウテン軍も中央から遅れてしまっては、それぞれの軍が連携を取れなくなってしまう。
「ここはひとまず様子見かしら……?」
そんなイゾルデの提案を受け、オスカーはしばらく黙り込んだ。そして、間無言で前方を見つめ――。
「いや、出よう。――左翼軍、速度を上げるぞ!」
下した判断は、様子見ではなく攻勢。予想外の指示だったが彼の部下たちはこういう事に慣れている。そして、イゾルデもオスカー・グロスモントという人間を信じていた。迷う事無く、自身の部下に速度を上げるよう指示を下した。
このオスカーの決断によって、ロスダウル平原の戦いは大きく動き出す事となる。




