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開戦3

「危なくなったら、ボクが守るから…いざとなったらボクの影に隠れてて」


「ありがとう、ハティ」


 椿とハティは、二人で同じ騎馬に騎乗している。ハティが前、椿が後ろ。手綱を持つのは椿という格好だ。そんな彼の元に、


「やあ、ツバキ少年」


 という言葉と共に椿に馬を近付けてきたのは亜麻色の髪を持つ剣士、レイアだ。彼女は中央第一軍の所属。中央第二軍の所属である椿とは距離が近いため、戦闘が始まる前の今ならこうやって近付いてきて話をする事もできる。


「うん――いいね」


 レイアは椿の顔を覗き込んで言った。


「いい面構えだ。戦いに挑む前の私の父上を彷彿とさせるよ。…なんて、私の父上みたいなおじいちゃんと一緒にしたら君に失礼かな」


「いえ、そんな事ありません。レイアさんのお父上はとても凄い剣士だと聞いています。そんな方を彷彿とさせるなん…むしろ僕には勿体ないですよ」


 レイアの父はエレオノールに剣術を教えた人物であり、リヒテナウアー流という剣術の先代当主という話は椿も耳にしている。


「うん。父上は凄い剣士だった。でも私が言ってるのは剣の腕前とかそういう事じゃない、戦いに向かう際の気構えについてさ。心は熱く、それでいて頭は冷静に…そんな気構え。君はそれが出来ている」


「ありがとうございます。そう言っていただけると…自信が持てます」


 自信家ではない椿としては、正直なところ自分がそこまで褒められるに値するとは思えない。しかし、今は彼女の言葉を素直に喜ぼうと思った。


「うんうん、自信を持ってくれたまえ。今回の戦いは父上の雪辱戦でもあるからね」


「レイアさんのお父上の雪辱戦…ですか?」


「ああそうさ。元々剣士だった父上は、聖王国の求めを受けて軍に所属した事があるんだ。そして、ヴォルフラム率いる軍団と戦い…敗北を喫した。その時に負った傷が原因で、剣士としても引退を余儀なくされてしまったんだ」


「そう…だったんですね」


 ならば、レイアとしては是非ともこの戦いに勝利し父の名誉を挽回したい所だろう。そんな事を考えていると、レイアとは逆の方向から声がかけられた。


「帝国相手に借りがるのは、リヒテナウアー卿の父上だけではないがな」


 そう言って椿の横に馬を並べたのはカイだ。


「むっ…」


 とハティがカイを睨みつけた。数日前のやり取りから、どうもカイに対して微妙な警戒心のようなものを抱いているらしい。しかしカイはそれを無視して…というか、椿以外は視界に入っていないのか、言葉を続ける。


「オレ達聖騎士(パラディン)の中でも、ミュルグレスとウルフヘレはヒューゴ・トラケウとの戦いで敗退させられている。ミュルグレスなどは、その際瀕死の重傷を負ったと聞く」


「あのミュルグレスさんが…」


 聖騎士序列二位であり、あれだけの能力を持つミュルグレスが敗北を経験しているというのは驚くべき事実といえた。大将軍フィシュタル・ジェネラルとはそれだけの存在だという事だろう。


 また、椿に対してミュルグレスがあれ程の期待を寄せるのはこの事と何か関係があるのではないか…と椿に思わせた。


「仲間の雪辱…オレとしても、なんとしても果たしたい」


 仲間、とカイは言った。彼女はミュルグレスやウルフヘレとは決して仲がいい間柄とは言えない。だが、それの上で二人の事を肩を並べる仲間として認めているという事だろう。


「そうですね」


 そう答えつつ、椿は思う。皆がそれぞれ胸に抱く想い――それがこの一戦に賭けられているのだと。

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