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開戦2

 進軍が開始され、聖王国、帝国両軍間の距離が徐々に縮まっていく――が、両軍が激突するにはまだ早い。先頭の部隊がぶつかるのは二時間後といった所か。


「ふぅ…」


「まだかよ…」


 兵達から、ため息と共に焦れるような響きが漏れる。


 ある意味で、兵達にとってはこの瞬間こそが最も耐え難い時間と言えた。徐々に近付いてくる敵軍。脳裏に描くは、敵を倒し勝利を手にした自軍の姿浮。が、次の瞬間には敗北し命を落とす自らのイメージがそれを掻き消す。首を振り、敵を倒す姿を思い再度浮かべる――その繰り返した。


 勝利と栄光。敗北と死。相反する二つの想像が交互に去来する。特に、今回の戦いは今までにない天下分け目の大決戦…兵達の緊張も通常以上だ。もっとも、兵達を統率する指揮官達のプレッシャーはそれ以上と言えた。


 指揮官…特に上級指揮官達の間ではすでに戦いは始まっている。時に偵察兵を出し敵の様子を伺い、時に敵の行動を受け作戦に修正を加える。例えば、敵左翼――シャルンホスト軍は現在敵軍の中で出遅れている。左翼、右翼、中央は足並みを揃えて展開するのが定石(セオリー)だが、シャルンホストはその定石(セオリー)を無視している形になる。


 並の指揮官であれば、部隊の統率が取れずミスを犯したと判断するべきだろう。しかし相手はヒューゴ・トラケウの右腕と言われる男。この出遅れには何か意図がある。下手に隙を突こうとすれば、その罠にまんまと絡め取られる羽目になる。


 否、そう思わせる事こそが敵の狙いかもしれない。敵の罠を恐れて攻撃を躊躇えば、逆にこちらがその好機を逸する事になる。


 すでに指揮官達の間では戦いの先を睨んだ読み合いが始まっていた。

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