参戦
「ほほう、これは面白い事になってきましたねえ」
シャルンホストはその顔に浮かぶ笑みをいっそう強めた。
「甲冑や武器など必要な物があればお申し出ください」
カイが模擬戦闘に参加する…というのが決定事項であるかのように話を進めるシャルンホスト。椿は慌てて言葉を挟む。
「ちょ、ちょっと待ってください…!カイさんはまだ参加するとは言ってないですよ。そ、そうですよね、カイさん!?」
「いや、オレは申し出を受けるつもりだ。戦いを挑まれたのならば逃げる訳にはいかないだろう」
「いや、でも、それは…」
「いいではないですか、ツバキ殿」
シャルンホストがツバキの肩をポンと叩く。
「これもまた、帝国と聖王国の友好の証という事で」
「でも…」
椿は、フィレルに視線を落とす。そして解析を発動した。
指揮90 武力93 知謀74 政策55
兵科特性:重装歩兵C 軽装歩兵D 騎馬隊A 弓隊E
(カイさんの能力値は指揮92 武力91 知謀85 政策74…これだけ見れば互角に渡り合えるはずだけど…)
模擬戦闘はその性質上、攻撃部隊と防御部隊、それぞれの指揮官が必要だった。カイ一人が優秀でも勝つ事はできない。
(それに、カイさんは騎馬隊の兵科特性は「B」、フィレル将軍は「A」)
この点においても、騎馬を用いる模擬戦闘においてフィレルが有利なのは明らかだった。カイが負ける公算は高い。そしてカイが公衆の面前で負ければ、聖王国軍は帝国軍に侮られて…今行っている交渉も不利になってしまう可能性がある。いや、それは考えすぎだとしても、この戦いがこちらにとって得になる可能性は極めて低かった。
やはり戦いを止めなければならない。
「やっぱりこの申し出を受けるのはやめましょう、カイさん。僕たちがここに来た目的はこんな事をするためじゃないんだから…」
「では、こういうのはどうでしょう」
ヒューゴ大将軍が口を開いた。ひょっとしたら助け舟を出してくれるのかもしれない。一瞬そんな期待を抱いた椿だったが、大将軍が切り出したのは意外な提案だった。
「私の権限でどうにかできる捕虜が十名程います。あなた方が模擬戦闘で勝利したならば…その十名を聖王国にお返ししましょう」
「え…捕虜を…?」
「はい。もちろん、捕虜返還のための身代金はいただきません」
「ちょ、ちょっといいっすか?」
エマが会話に加わった。
「その捕虜って、どんな方達がいるんっすか?」
「そうですね。カペルマン男爵、ペサール子爵、モリゾー子爵…」
「ま、まじっすか?」
エマは、椿を抱き寄せ耳に口を近付けて、
「みんな門閥に関係ある貴族っす。本来なら身代金で金貨何千枚も払わないと返して貰えないような人達ばっかりっすよ」
と囁いた。
もしそれが事実だとしたら…模擬戦闘に勝つだけで、金貨何万枚という利益を聖王国にもたらす事になる。ちょっとした戦争に勝利する以上の利益だ。
「ヒューゴさん…本当ですか?」
「はい。大将軍の名に誓って、嘘は申しません。必要とあらば文書にしたためましょう」
「…分かりました」
椿は意を決した。こうなっては他に選択の余地はないだろう。
「模擬戦闘の申し出、お受けします。…その代わり、僕も参加させてください」




