戦地へ7
「ぐっ…副長だと…!」
マリヒィンは完全に見誤っていた。騎馬隊の先頭を行く鮮やかな身のこなし――この人物こそ、正義の聖騎士に違いないと勝手に決めつけてしまっていたのだ。いや、それすらすでに聖王国軍の作戦のうちか。先頭を副長に進ませ、本命の正義の聖騎士に崖の迂回路から奇襲させる。その罠にまんまと引っかかってしまったという事だ。
(くそっ!正義の聖騎士ってえ最強の駒を横からの奇襲に使うとは…!)
悔やんだ所でもう遅い。聖王国軍最強の騎士に真横から突撃され、マリヒィン隊はなす術もない。さらに正面には敵軍副長に加え続々と騎馬が駆け上ってくる。
「おい!オレゴウナ!」
隣の岩山を守る弟の名を叫んだ。
「やばい!こっちの山が正義の聖騎士に占領されそうだ!弓で援護してくれ!」
隣の岩山の頂上からこちらの岩山の頂上まで、ギリギリ矢が届く距離だ。焼け石に水かもしれない。それでも一縷の望みを託し、縋るような想いで隣の岩山に視線を向ける。そんな彼の目に飛び込んで来たのは…紅い旋風。
グロスモント隊隊長、オスカー・グロスモントの振るう暴風の如き剣に隣の岩山の兵達が蹴散らされている姿だった。
「なっ…!」
絶句するマリヒィン。そんな彼の耳に、弟の悲痛な叫びが届く。
「兄貴…無理だ…!こ、こっちの方こそ助けてくれぇ…!」




