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戦地へ3

 聖王国軍が前進する先にある街道。それを挟むように聳える岩山に陣取るは、北統王国軍二千人隊隊長オレゴウナ・マリィヒン。同じく反対側の岩山に潜むは二千人隊副長レシゴウナ・マリィヒン。人呼んで『マリィヒン山賊兄弟』。兄のオレゴウナ、弟のレシゴウナ共に顔の下半分を覆う髭、手に持つは(アックス)とその二つ名に恥じない山賊じみた風貌をしている。


 見た目こそ山賊じみた彼らだが、これでも北術王国では並の将軍などより名の知れた存在である。にもかかわらず、二千人隊隊長止まりであるのは何故か。それは彼らの度重なる軍令違反が原因だ。待機の命令を無視して敵に襲い掛かり勝手な略奪を行い、時には貴族を強請(ゆす)って金を巻き上げる事ある。千人隊隊長止まりというのも当然だろう。いや、普通ならば処刑されていてもおかしくはない。そんな彼らが今なお北統王国の所属でいられるのは――ひとえに、強いからだ。


 山や森林での戦いでは、北統王国で彼らの右に出る者はいないと言っていいだろう。北統王国を悩ませてきた海賊が森林地帯にまで勢力を伸ばそうとして来た際にそれを撃退した実績もある。こういった起伏のある場所での戦闘は彼らの本領と言えた。


「頭目!敵が俺達の存在に気付いたみてえです!」


 配下の兵が隊長であるオレゴウナに報告を行う。隊長ではなく頭目、と呼ぶ辺り本当に山賊じみている。


「千人程度の騎兵集団が左右に別れこの山を目指していやす!どうしますか!?」


「ふひゃ、慌てんなって…」


 オレゴウナは前歯の欠けた口を開けて笑った。


「気付いたからって攻略できる訳じゃあるめえよ…」


 オレゴウナ達の布陣する山はさして標高が高い訳ではない。しかし山肌は極めて急な傾斜であるため登れる場所は限られている。


「馬で登って来たとして、1騎ずつがやっとだろうよ」


 マリヒィン隊の兵力は、二つの山にそれぞれ千名ずつ。大軍が襲い掛かって来ればひとたまりもない。だが、地形的に1名ずつが登ってくるのが限界。それは反対側の山に布陣するレシゴウナについても同様だ。


「ひとりひとり登ってくるようなら、登ってきた所を叩きゃあいい。もし(おい)ら達を無視して街道を突っ切ろうとするなら、上から岩を落とせ」


「へい!了解でさ!…しかし、もし聖王国軍の奴らが街道を迂回したらどうするんで…?」


「何言ってやがる、そうなりゃ(おい)ら達にとって好都合じゃねえか。…おい、(おい)ら達の雇い主は誰だ?」


「へえ、貴族達ですが…」


 そう、マリヒィン達は現在北統王国の実質的な最高司令官となっているヴォルフラムの命令を受けてここに布陣している訳ではない。彼らは北統王国貴族の依頼で今ここにいる。


(おい)ら達が貴族連中から与えられた役目はあくまで時間稼ぎだ。もし奴らが街道を迂回するようなら…少なくとも三日は余計に時間がかかる。そんだけ時間を稼げりゃあ上出来ってもんだろうぜ」


「なるほど…。しかし、なんで貴族連中は俺達に時間稼ぎなんて依頼したんでしょうね?」


 ここで時間を稼いだとしてもこの先聖王国軍とヴォルフラム軍が戦う事は変わらない。ならば、ここで時間稼ぎをする戦略的な意味はないと言っていい。


「まあ、全く意味がねえって訳でもないだろ。無駄に時間を食わせりゃあ、聖王国軍の士気もいくらか下がるはずだ。けど、貴族連中が考えてるのはそんな事じゃねえ…奴らは、亡命の時間が欲しいのさ」


「亡命、ですかい…?」


「おおともよ。奴らは正義の聖騎士パラディン・オブ・ジャスティスが攻めて来ると知って、慌てて亡命の準備を進めてるのさ。世界最強の大将軍フィシュタル・ジェネラルと言えども正義の聖騎士パラディン・オブ・ジャスティスが相手じゃあ必ず勝てるとは限らねえ」


「なるほど、次の決戦で大将軍フィシュタル・ジェネラルが負けりゃあ、北統王都は占拠される事になりやすからねえ」


「それで帝国にこっそり賄賂を贈って、万が一の事態に備え亡命準備を進めてるって訳さ。(おい)ら達はその時間を稼ぐためにここにいるって寸法よ」


「はあ…お貴族様は国の存亡にも関わらず国じゃあなく自分の命の心配ばかりとは」


「ま、そのおかげで稼がせて貰える訳だがな」


 皮肉げに笑い、マリヒィンは迫りくる騎馬隊を見下ろした。


「さあ――正義の聖騎士パラディン・オブ・ジャスティスだろうがなんだろうが、ここは(おい)らの独壇場だ。かかって来やがれ」

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