聖騎士筆頭2
聖王国軍野営地の一角で椿とカムランは向かい合う。
「出発の日の朝だと言うのに時間を取らせてしまってすまない、ツバキ軍師」
「いえ…僕の方こそ、司令官にわざわざ出向いてもらって…なんだか申し訳ないです」
椿としてもいつかカムランとは話をしたいと思っていた。それはカムランが自分に興味を持っているという話をレイアに聞いたからでもあるし…聖騎士筆頭、最強の聖騎士であるカムランと話ができれば自分にとっても大きな糧になると考えていたからだ。
だが、この10日間は椿にとってもカムランに会いに行く余裕がない程に忙しい毎日だった。それは向こうも承知の上なのだろう、少年を気遣うようにカムランは柔らかく微笑み、言った。
「実は出発前で緊張していてね。それを紛らわすためにも君と話をしたかった」
「緊張ですか?カムランさんが…?」
カムラン・フォン・レオンハルト。あのオスカーを上回る武勇の持ち主であり聖王国軍の頂点。そんな彼に緊張という言葉は似合わなかった。
「うん、僕は勇敢さという点ではグロスモント卿やネヴィル卿には到底及ばない。怖いものは怖いし、緊張だってする。何しろ相手は帝国の双剣…世界最強の大将軍だからね」
そこで一度言葉を区切り、カムランは椿の顔をじっと覗き込む。確かにその表情からは僅かな緊張の色を伺う事ができた。しかし、少年がそれ以上にはっきりと感じ取ったのは――爛々と燃えるような闘志。
「でも、仲間のため、聖王国の人々のため、平和のため――負けるつもりはないけれどね」
カムランはそう言い切って、もう一度微笑みを作る。
「まあ、これは君の方も僕と同じ気持ちだと思うけれど」
「――はい。僕も、平和のために…絶対勝ちたいです。そして、勝つために少しでも多く貢献したいと思っています」




