敵戦力5
「決して大将軍閣下および帝国軍が力不足などと言いたい訳ではありませぬ…!」
バウテンはヴォルフラムの鋭い眼光に睨みつけられながらも引き下がらない。
「帝国軍だけでも聖王国軍には勝てるでしょう。しかし、兵の損害がゼロという訳にはいかぬもの。我らが加われば、僅かでもその犠牲を減らす事ができるはず。戦略的に考え、我らが加わる事は帝国軍にとっても利益があるはず…!」
「さて、どうだかのう…」
「聖王国軍にやられたままでは北統王国の名折れ、そして何より…命を賭けて散っていった部下が浮かばれませぬ!どうか、わしらに参戦の許可を!」
「ふは、北統王国軍が弱いのは事実じゃろう。それに命を賭けて散った部下のう…。確か、配下の将軍が討たれたんじゃったか。まあ、碌な男じゃあなかったんじゃろうなあ…」
「ヴォ、ヴォルフラム閣下!」
跪いていたバウテンは立ち上がり、目の前の大将軍を睨みつけた。
「大将軍閣下とはいえ今のお言葉は見過ごせませぬぞ!同盟国を侮辱し、勇敢に戦った戦士を辱めるような物言いは――!」
「んん?ではどうする?わしに挑んでみるか?」
ヴォルフラムは腰の剣に手をかけた。と同時に、凄まじい殺気が部屋に充満する。
バウテンとヴォルフラム。年齢は両者ともにさほど変わらない。だが、やや小柄でやせ型のバウテンと巨体のヴォルフラムでは肉体の発する圧力がケタ違いだ。しかし尚も…バウテンは怯まない。
「ヴォルフラム閣下が撤回せぬというのであれば…!」
バウテンはヴォルフラムに向かって進み出る。無論、戦ったとして勝てぬ事は分かっている。だがここで引き下がる訳にはいかなかった。
(ここで引き下がっても北統王国に利益はない…。腰抜けばかりと舐められるだけじゃ!)
それならば勝てぬまでも意地を見せよう。北統王国の名誉のために。そして何より散っていった部下のために。
バウテンもまた腰の剣に手をかけた。




