敵戦力
北統王国中央兵舎。本来ならば北統王国軍のために使用されるべきそこは、現在帝国軍兵士で埋め尽くされていた。そんな兵舎の最上階。副司令官、エルヴィン・グリュックスに与えられた指令室に集結するは大将軍配下の最高幹部達。
「いやあ、なかなかいい部屋。この壁の絵とか、売ったら結構な値段になるんじゃないかなあ…」
そんな事を言いながら部屋を見回すのは顎髭を生やした男性。年齢は三十代の半ばといった所か。一見すると細身に見える体躯だが、その体は引き締まった筋肉で包まれている。
「エーミール将軍。あまりキョロキョロするものじゃないぞ」
そうたしなめたのは、青みがかった髪の青年。数日前ジークフラムの前に立ちはだかろうとした人物だ。
「真面目だな、フェリクスは。この間も『狂獣』ジークフラムから大将軍閣下を守ろうとしてたもんな」
「当然でしょう。それが我々の役目だ」
「ははっ、そんな心配しなくても閣下があんな奴にやられる訳ないだろ?」
「それはそうだが…だからと言って、ただ見ているだけというのは…」
「しかし、それが大将軍閣下の望みさ。常に自ら最前線に立ち、己の腕っぷしで勝利を勝ち取ってきた。だからこその『世界最強』――だろ?」
「…」
フェリクスは返す言葉が無かった。歳若い彼に比べて、エーミールの方が大将軍については知り尽くしている。
「ただまあ、真面目なのはお前の長所でもある。大将軍閣下の素晴らしい所は、使えるものは何でも使うって点だ。ジークフラムみたいな無法者、シャルンホストみたいな変態、そしてお前のような真面目な奴…何でもな」
「その通り」
今まで窓の外を眺めていたこの部屋の主…エルヴィン・グリュックスが口を開いた。
「我々は閣下の御意思によって集められた。敵国を蹂躙するという目的を果たすための道具としてな。そして今回敵対するのは、かつてない程の強敵だ。間もなく大将軍閣下もこの部屋に来訪される。今回の作戦についての最終確認だ。気を抜くなよ」




