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不協和音

 商業都市スルズにおいて聖騎士(パラディン)が集合するその数日前。


 北統王国・王都アトゥーン。その象徴とも言える荘厳な王宮。その一室で二人の男が向かい合っていた。


 ひとりは白髪の青年。帝国軍大将軍付参謀長(ストックスフィア)フェルマー・シャルンホスト。秀麗な顔立ちと言ってい良い人物だが、その顔には見る者を不快にさせ不気味な笑みが張り付いている。


 対するは羆すらも見下ろす事が出来るであろう長身の男。特務竜兵隊隊長ジークフラム・ガイセ。彼の顔にもまた笑みが浮かんでいるが、その性質はシャルンホストの物とはまた違う。獣の如き獰猛な笑みだ。


「おい…」


 ジークフラムが言葉を発した。その見た目通り、獣の唸りが如き声だ。


「今から出陣するぞ。兵を用意しろ、シャルンホスト」


「ガ、ガイセ隊長…相手は上将軍(ハイ・ジェネラル)です。そのような物言いは…!」


 後ろに控えていた特務竜兵隊副長、マルガレーテ・セファロニアがジークフラムを諫めた。


 上将軍(ハイ・ジェネラル)。帝国軍において、大将軍フィシュタル・ジェネラルに次ぐ軍人の最高峰。その肩書きを持つシャルンホストは当然、ジークフラムよりも地位は上だ。本来ならばこのような口を効いていい相手ではない。


 しかし、シャルンホストは別段不快になった様子もなく、


「はあ、今から出陣ですか。それはいったいどうしてでしょう?」


 と質問した。


「決まってんだろうが。ヌガザ城砦で俺に傷をつけやがった女騎士とガキをぶっ殺すためだ」


「残念ながらそのような理由では軍を動かす事はできませんねえ」


 シャルンホストは首を振る。


「と言うより、まずは(わたくし)に謝罪の言葉があってもいいのではないですか?」


「ああ!?何の謝罪だぁ!?」


「いや、あなた北統王国の関所を壊してこの国に入ってきたじゃないですか。(わたくし)が北統王国上層部を説得したからなんとか納まったものの、普通なら同盟国に対する攻撃で極刑ですよ」


「知ったこっちゃねえ、てめえが勝手にやった事だろうが。それも俺のためじゃねえ…その方がてめえにとって有利になるからだ。違うか!?」


 ジークフラムは悪びれる風もない。


「へえ…あなた」


 シャルンホストは意外そうな表情で目の前の男を見上げた。


「何も考えていないようで、意外と頭を働かせているんですねえ」


「んだと…?」


「それでしたら理解できるはずです。あなたと(わたくし)の手持ちの兵だけでは、あなたが目当てとするツバキ・ニイミとエレオノール・フォン・アンスバッハは倒せませんよ。間もなく到着する大将軍フィシュタル・ジェネラルを待って、それから出陣するべきです」


「シャルンホスト閣下のおっしゃる通りです、ジークフラム隊長」


 マルガレーテもシャルンホストの意見に同意する。シャルンホストの存在には不気味さを憶えている彼女だったが、それはそれとして今は間違った事は言っていない。


「ちっ…」


 ジークフラムは舌打ちをひとつ。しかし、彼としてもシャルンホストの意見が正しいという事は理解できるようだ。


「分かった。大将軍フィシュタル・ジェネラルの到着を待ってやるよ。だが、それはそれとして――」


 『凶獣』ジークフラムはシャルンホストに歩み寄る。


「ムカつくんだよなァ…てめえ…!」


 言うや否や、シャルンホストの腹目掛けて拳を叩き込んだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] …フフフ…そうだそうだ…狂人同士いがみ合え…シュバシュバシュバ…失礼、負の感情と変な笑いが… [気になる点] どっちの狂人が先に永遠退場するか予想するなら…事故物件野郎が先かなぁ?…まぁ、…
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