エレオノール・フォン・アンスバッハ3
「まずは、この世界の歴史をおさらいしておこう。確実な歴史が分かるのは…今から約二千年前。それ以前の歴史は、神話として語り継がれるのみで確かな事は分からない。と言っても、その二千年前にしても断片的な記録しか残っていないけれどね。ただ…確かな事は、当時世界はいくつもの国に分裂して争っていた」
「今みたいな状態だった…って事かな」
「今よりも多くの国に分裂して争っていたようだね。少なくとも50以上の国はあったようだ」
「50…」
日本の戦国時代みたいだな、と椿は思った。
「その戦乱ではいくつもの国が興り、そして滅びていった。永遠に続くかと思える戦乱の世。けれど、今から約千五百年前にそれに終止符を売った者がいた。その人物は全ての国を統合し、ひとつの巨大な国家を作り上げたんだ。建国した国は大世界、国を作り上げた人物は皇帝と呼ばれ、世界には長きに渡る平穏が訪れた。さっき言った、姓に『フォン』が付く家柄はこの大世界建国に功績のあった貴族の末裔という事だね」
「なるほど…」
椿はアイヒホルンの事を思い出していた。彼は追い詰められた時、自らの家柄を誇っていたが…千五百年の歴史を持つからこそあそこまで増長したのだろう。
「けれど、どんなものにはいつかは終わりが訪れる。今から五百年前、大世界も崩壊。世界が完全に分裂した戦乱の世が二百年程戦続いた後、世界は有力な七つの国による均衡状態に落ち着いた。それが今この世界にある国…聖王国や帝国という事だね。そして、その七か国による均衡状態も近年崩れ…今は七か国間で覇権を争う事態になっているという訳さ。いや…七か国のうち四か国は滅び、今は聖王国、帝国、北統王国の三か国か…」
「そっか…」
今までは断片的にしか知らなかったこの世界の成り立ち。それを始まりから説明され…椿は改めてこの世界にも『歴史』が存在したのだと実感する。
「つまりエレナは…アンスバッハ家は、名前に『フォン』が付くって事は大世界建国に功績のあった貴族って事?いや、でもさっきそれは違うって言ってたような…」
「うん、その通り。私は大世界建国に功績のあった貴族の末裔ではない」
「それならなんで、名前に『フォン』が…?」
「それは――私が大世界を建国した人物そのもの。つまり、皇帝の末裔だからだよ」




