エレオノール・フォン・アンスバッハ2
「アンスバッハ家が公爵の爵位を持っている事は知っているね?」
「うん」
エレオノールの言葉に椿は頷く。
「確か、聖王国では公爵が一番上の爵位…。だったよね」
この世界における爵位は、下から男爵・子爵・辺境伯・宮廷伯・侯爵・公爵・大公の七つ。とはいえ大公は王国から独立した公爵に与えられるものだから、聖王国内では公爵が最高位である。
「その通り。では、私の姓に『フォン』が冠されている理由は聞いた事があるかな」
「えっと、それは…聞いた事がないかな」
そういえば…と、椿は考える。この世界の人物の中には、名前と姓の間に『フォン』と呼ばれる前置詞が入る人々がいる。例えば精鋭槍騎士総司令官のハインツ・フォン・アイヒホルン。正義の聖騎士のカムラン・フォン・レオンハルト。そして王太子もヨハンネス・フォン・リーゼンバッハという名前だったはずだ。
では貴族や王族の姓名には全員『フォン』が付くのかと思えば、そういう訳でもない。例えばオスカーも辺境伯の爵位を持つ貴族だというが、オスカー・フォン・グロスモントとは名乗っていない。
「フォンというのは一種の称号なんだ。そして、姓の前にフォンの称号を付けてもいいのは…かつてこの世界が今のような複数の王国に別れる前…ひとつの国だった時から貴族だった家柄の者のみ」
「へえ…それじゃあ、アンスバッハ家もその頃から貴族の家柄だったって事?」
「うん、そうだね。と言いたい所なんだけれど…正確にはちょっと違うかな」
「…?」




