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思惑・3

「…お初にお目にかかります、大将軍閣下」


 敵国の人間とはいえ、最高位の軍人である事には変わりない。エレオノールは背筋を伸ばし、自らの胸に手を添える敬礼を行う。しかし警戒は緩めず、


「いったい何の御用があってご足労いただいたのでしょうか」


 と問いかけた。


「理由は、二つ」


 ヒューゴの声は静かで、それでいて胸の奥底まで響いてくるような重さを伴っていた。


「まず何よりも、私の包囲を破ったあなた方に御挨拶を申し上げたかったのです。干戈を交えた敵というものは、時に味方以上に親しく感じてしまうもの。…もっとも、私達が直接剣を取り合ってぶつかった訳ではありませんが…私は丘の上からあなた達を見ていました。ピエール・ラムケ五千人隊隊長に狙いを絞り包囲網を崩した手並みは見事なものです。流石はアンスバッハ殿。舌を巻きました」


「…光栄です。とはいえ、私一人の力では包囲網突破は成し遂げられなかったでしょう」


「ほう。…という事は、やはり」


 大将軍フィシュタル・ジェネラルの視線が椿に向けられる。


「軍師、ツバキ・ニイミ殿の力が大きいという事でしょうか」


「いえ、僕はそんな…」


 椿が答える。普段ならここでエレオノールが口を開き、ツバキの素晴らしさを渾々と語る所だろうが…今は黙っていた。相手は帝国の大将軍。あまり椿を褒めれば、目をつけられて本当に命を狙われかねないからだ。


「謙遜する必要はありませんよ。あなたには、どこか特別な力があるような気がする。…あくまで、私の勘ですが」


 ヒューゴはじっと椿を見つめる。睨みつけるような視線ではない…それでも思わず気圧されてしまいそうになる。これが大将軍の圧力というものか。


「ツバキ・ニイミという名も珍しい。出身は、聖王国のどこですか?北部ノードか…それとも、西部ウェストあたりでしょうか」


「…すみません、その質問には答えかねます」


 エレオノールが間に割って入った。


「大将軍閣下。あなたの持つ軍人としての能力、心より尊敬しています。しかし我々は敵同士です。あまり立ち入った話は…」


「これはすみません、私とした事が」


 エレオノールの言葉に不快感を感じた様子もなく、ヒューゴは素直に引き下がった。


「確かに我々は敵同士。互いに敬意を払う事はあってもあまり相手のプライベートにまで踏み込むべきではありませんでしたね」


「…御理解いただき感謝します」


「では、もう一つの要件を済ませておきましょう。明日の午後、城砦の中央広場にお越しくださいませんか?お見せしたいものがあるので」


「見せたいもの?」


「はい。我々帝国軍の馬上試合…いわゆる模擬戦闘トーナメントです」

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