聖騎士集結4
聖騎士による挨拶は手短に終了した。兵達が休む場所の割り振りなどを行う必要があるため、今後に関する具体的な作戦会議は明日以降となる予定だ。
「エレナ、お疲れ様」
椿はつつがなく進行役を終えたエレオノールに労いの言葉をかけた。
「うん、聖騎士が一堂に会するなどあまりない機会だからね、私も緊張してしまったよ」
そんなエレオノールに対し声をかけてきた者がひとり。
「またまた、ご謙遜を。今の君は聖騎士に並ぶとも劣らない存在だろう?」
そちらへ視線を向ける。立っていたのは、恬淡とした表情の女性。聖騎士序列第七位、レイア・リヒテナウアーだ。
「師匠…!お久しぶりです」
エレオノールはレイアに対して敬礼を行う。それを軽く受け流しながらレイアは、
「はは、師匠はやめてくれないかい。君の師匠は私の父上、私はただの姉弟子に過ぎないよ」
と肩をすくめた。
「もちろん、御父上…イェルク・リヒテナウアー殿は私の大師匠です。しかし、レイア・リヒテナウアー殿も私の師匠だと心得ています。…そうだ。御紹介しましょう」
と言って、エレオノールは椿の背に軽く手を添える。
「軍師として私を支えてくれてくれているツバキ・ニイミです。彼には本当に…何度も助けられています。私が師匠にお会いできるまで無事でいる事が出来たのも、ツバキのおかげです」
「はじめまして、ツバキ・ニイミです。…本当は僕の方が何度もエレナに助けられてますけど」
とレイアに対して自己紹介を行う。
「へえ、君がそうかい。正義の聖騎士が君の事をえらく評価していたよ」
「え…カムラン・フォン・レオンハルトさんが…ですか…?」
「そうさ。後で話をしてみるといい」
「は、はい…!」
椿の素直な態度に、レイアは思わず微笑みを浮かべる。そしてエレオノール視線を戻して、慈しむような表情で彼女の顔をじっと覗き込む。
「それにしても…本当に大きくなったね、エレオノール。いや、今は家を継いでアンスバッハ公爵だったね」
「いえ、昔のようにエレオノールとお呼び下さい」
そんなやり取りをしていると、
「あっ…!」
という少女の声。
「レイアさん…!」
と声の主が近付いてくる。
「ほう…エマちゃんかい」
「はいっ。お久しぶりっす!」
「ふふ、君も大きくなったねえ。…おや?」
レイアの瞳は、エマの後ろにいる老紳士の姿を見とめた。
「これはこれは、ホフマン老。あなたは…変わってませんね」
「さよう。昔から爺でしたからな」
「お変わりないのはいい事ですよ。――うん、エマちゃんに、ホフマン老に、そしてツバキ君…。アンスバッハ家にはあんな事があったから心配していたんだけど…エレオノールの事を支えてくれる人が沢山いて私も安心したよ」
(あんな事…?)
椿が怪訝な表情を浮かべる。それを見てエマが、
「レイアさんのお父さんは聖都でも有名な剣術家だったんっす!それで、レイアさんと一緒にアンスバッハ家にも剣術指南に来ていて…その縁で自分やホフマンさんもレイアさんと顔見知りなんっすよ」
と、椿の疑問からは少し外れた説明をした。しかし、そのおかげでレイアとエレオノール達の関係を知る事が出来た。
「色々と積もる話を…と行きたい所だけれど、残念ながらそろそろ行かないと。聖騎士になんてなってしまったせいで、私も忙しくてね」
「師匠が聖騎士になったと聞いた時には驚きました」
「なりたくてなったんじゃないんだけどねえ。私の本業は兵を指揮する事じゃなくて剣術と戦術研究だし。ま…時間が出来たらゆっくりと話をしよう」
「はい」
「じゃあまたね、私の可愛い妹弟子…それに、エマちゃん、ホフマン老。そしてツバキ君」
手を振り、レイアは立ち去っていった。




