今後26
商業都市スルズ南東に広がる丘陵地帯を進む部隊があった。白銀の甲冑に白の騎士服。聖王国軍の一団だ。この一団の中心となる人物は2名。聖騎士七騎筆頭、正義の聖騎士。そして聖騎士七騎序列第七位、慈愛の聖騎士。
「さあて…あの子に会うのも久しぶりだねえ」
亜麻色の髪を持つ妙齢の女性、慈愛の聖騎士が呟くように言った。それに対し、隣に並ぶ正義の聖騎士が声をかける。
「あの子、とはエレオノール・フォン・アンスバッハ殿の事かな」
「その通り。私のかわいい妹弟子さね。あんたも気になるだろう?」
「そうだね。前々からその存在は気になっていたよ。貴女から話は聞いたし…ここ最近の活躍も目覚ましい。でも、僕はもっと気になる人がいるんだ」
「へえ?あのアンスバッハ家の末裔にして、私のお墨付きの妹弟子…さらには最近じゃあ戦乙女なんて呼ばれ始めてるあの子より、気になる存在がいるって?」
「ああ。アンスバッハ殿の軍師…ツバキ・ニイミさ」
「ツバキ…?ああ、確かにそんな名前の少年軍師がエレオノール隊で活躍してるって噂は聞いた事があるけど…」
慈愛の聖騎士は怪訝な表情を浮かべる。
「でも、アンスバッハ公爵以上に気にかかる存在なのかい?」
「僕は前々からアンスバッハ殿の存在は気にかけていたんだ。もし聖騎士に8人目が加わるとしたら彼女かウィル・ユンカースだと思っていたからね。けれど、アンスバッハ殿はその出自もあり長らく百騎隊隊長に留まっていた。それが――ツバキ・ニイミが軍師となってから彼女は一気に頭角を現した。一年足らずで万単位の兵を率いる立場になったんだからね」
「ヌガザ城砦の防衛や巨大要塞の攻略を成功させたのもツバキ少年の力だって事かい?」
「もちろん、アンスバッハ殿が元々備えていた実力も大きいよ。でも…それだけじゃない。きっと、ツバキ少年はアンスバッハ殿にはない…いや、僕は貴女だって持っていない『何か』を持っている」
「…なんなのさ、その『何か』ってのは」
「分からないよ。分からないから――会いたいんだ、彼に」
そう言ったその時、隊は丘陵地帯を登り切った。そして、彼らはその視界の先に捉えた。商業都市スルズを。そして、エレオノールやツバキのいるグロスモント軍野営地を。
第四章 聖騎士VS帝国の剣1 終了
第五章 聖騎士VS帝国の剣2へ続く




