今後14
『蛇の背』関所が攻撃されるに至った経緯はこうだ。
第二関所が突破される1時間程前、蛇の背第一関所に帝国の軍服を着た200名ほどの集団が現れた。そんな報告を部下から受け第一関所の分隊長は顔をしかめた。
「帝国軍が来るなんて連絡は受けていないが…」
同盟国とはいえ、入国するならば事前に通達しておくのが礼儀というものだ。
「追い返しますか?」
「そうしたい所だが…相手がお偉いさんだった場合、下手に追い返して面倒ごとになったらやっかいだ。…会おう」
部下とそんなやり取りをした後、分隊長は帝国軍約200名の前に姿を現した。
「私はこの関所の守備を任されている者です。…そちらの代表は?」
「――はい。私です」
そう言って兵達の間から現れたのは二十歳をいくらか過ぎたばかりと思われる女性だ。
「ん?あなたがこの隊の隊長ですか?」
相手が若い女性だという事実に、分隊長の瞳に安堵と侮りの色が浮かぶ。
「いえ、その…隊長代理です」
「なるほど。つかぬ事を聞きますが…この隊の隊長は貴族の出だったりしますか?」
「え…?平民の出身ですが」
「ふん、そうか」
分隊長の顔に嘲りの表情が浮かぶ。彼は北総王国の下級貴族出身。平民などは自分とは住む世界が違うと思っている。もっとも、貴族出身でありながら関所の分隊長という地位に甘んじているのは彼の傲慢な性格故なのだが。
「まあ何でもいい。…で、用件は?」
「はい。この関所を通行させていただけないかと」
「困るなあ」
分隊長はため息を吐いた。
「関所の通行には事前の通達が必要。それはあんたも分かっているだろう?」
「…すみません」
「まったく、北統王国も甘く見られたもんだ――」
それから分隊長は女性に対してクドクドと苦言を述べたはじめた。
「確かにあんたのバックには強大な帝国が付いているのかもしれん。帝国のお偉いさんに比べれば、わしなどしょせん僻地を防衛する関所の分隊長だ。しだがな、いくら帝国が兄弟であろうとあんた自身はただの小娘だと自覚を…」
「すみません!」
分隊長の苦言を遮り、隊長代理の女性が言葉を挟む。
「お願いです、何も言わずに通していただけないでしょうか…!」
「なんだ?わしの話を聞いていたのか?小娘が偉そうに…!」
「お願いです!通していただけないと…あなたが危険なんです!」




