栄章3
「ツバキ君を?ああ、そうか。貴公は馬上槍試合でツバキ君と肩を並べて戦ったのだったな」
「そうだ」
「貴公に聞いた通り、頼もしい少年だ。俺の方こそツバキ君には随分と助けられている」
オスカーとカイのそんな会話を聞きながら、椿は少しばかり照れくさい気持ちになる。彼としては、「僕は少しでもみんなの役に立てるよう頑張って…たまたまそれが上手くいっただけです」とでも言いたい気持ちだっただろう。
「…ツバキも、お前の事は信頼していると言っていた」
カイは椿の方をチラリと横目で見つつそう発言する。
「俺とツバキ君は裸の付き合いをした仲だからな。信頼関係は出来ているさ」
オスカーが何気なく言ったそんな言葉に、カイの表情が険しくなる。
「な、何!?き、貴様!どういう意味だ!?」
「どういうもこういうも、男同士体と体で語り合っただけだが――」
オスカーとしては、一緒にレスリングをした事を言ったつもりだったのだろう。しかし、カイは違う意味で受け取ったようだ。
「は、裸で…か、カラダとカラダでだと…!き、き、貴様!そういう趣味があったとは…!よ、よくもオレのツバキを!――おい、誰かオレの剣を持って来い!決闘だ!オスカー・グロスモント!」
「ちょ、ちょっと、ネヴィル卿!?いきなりどうされたんですか!?とにかく落ち着いてください…!」」
慌ててオスカーとカイの間にガレスが割って入る。
「これが落ち着いていられるかっ!」
凄まじい剣幕のカイを前にして、オスカーは「ふむ…」と頷く。
「いいだろう。理由は分からないが、決闘を申し込まれては受けるのが騎士の慣い。それに貴公とはいずれ剣を交えてみたかった」
「グ、グロスモント卿も火に油を注ぐような事を言わないでくださいよ!」
二人の間で必死に争いを収めようとするガレス。それを見て、リヒターが小さく呟いた。
「いやあ、苦労人だねえ…ガレス殿も」




